◆生きた心地がしないまま時間だけが進む
確信を得てからの時間は、安西さんにとって拷問に等しいものでした。目の前で息子の横に座り、お淑やかに笑っている女性。2年前、ホテルのバーで自分に媚びるような視線を送り、対価を受け取っていた彼女。
でも、彼女は完璧な『息子のフィアンセ』を演じ続けている。もしここで私が何か言えば、自分のパパ活も露呈し、家庭も社会的地位も崩壊する。気づかないフリをするしかない、と自分に言い聞かせました」
結局、食事会は何事もなかったかのように終了しました。息子は「親父も気に入ってくれてよかったよ」と嬉しそうに言い、妻も「素敵な娘さんね」と上機嫌。
安西さんだけが、足元の地面が腐り落ちていくような感覚を抱えたまま、ホテルの車寄せで彼らを見送ったといいます。
「彼女が去り際、私にだけ深々とお辞儀をしたんです。その時、微かに口角が上がったように見えました。それが確信犯としての嘲笑なのか、あるいは私と同じ恐怖を隠しているのか、判断がつきませんでした」
◆墓場まで持っていくべき「秘密」の行方
その後、事態は安西さんの葛藤を置き去りにして、猛スピードで進展していきました。両家の顔合わせが済み、披露宴の日取りまでもが決定。新居の相談まで始まったといいます。しかし、安西さんの心は一向に晴れません。
でも、もし結婚した後に誰かから漏れたら? あるいは彼女が息子を操り、私を強請り始めたら? 毎日、そのことばかり考えて眠れないんです。彼女の目的が、純粋な愛なのか、それとも偶然を装った復讐なのかさえ分かりません」
その後、息子たちの結婚へ向けての準備は順調に進み、この取材を受けた半年後に披露宴を行うそうです。自分の浅はかな行動に苦しめられている安西さん。最近は体重が5kgほど落ちたそうです。
<TEXT/八木正規>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営

