「忙しさの正体」をデータで解明。80年続く下町の病院を変えた、事務部長とデータサイエンティストの組織改革

「忙しさの正体」をデータで解明。80年続く下町の病院を変えた、事務部長とデータサイエンティストの組織改革

「忙しさの正体」をデータで解明。80年続く下町の病院を変えた、事務部長とデータサイエンティストの組織改革

「このままでは潰れる」若手理事が感じた危機

東武亀戸線・小村井駅から徒歩5分。下町の風情が残る住宅街に建ち、97床を擁する墨田中央病院は1941年の開院以来、地域医療を支えてきました。

医療の質や日々の患者対応そのものに大きな支障はありませんでしたが、残業が常態化し、業務は属人化。患者情報や業務に必要なデータの管理も追いつかない状態が続いていました。

墨田中央病院
墨田中央病院

2019年4月、小嶋和樹さんは墨田中央病院の理事・事務部長に就任しました。当時36歳。長い歴史を持つ病院組織の中では、異例ともいえる若さでの抜てきでした。それまでは併設のクリニックの責任者を務めており、病院の運営に深く関与するのは初めてのこと。

「最初は何から手を付ければいいのか、院内で何が起きているのかもわからず、正直戸惑いがありました。ただ、日々の業務を見て回るうちに、このままのやり方を続けていては長く持たないのではないかと感じました」(小嶋事務部長)

墨田中央病院 理事・事務部長 小嶋 和樹さん
小嶋 和樹(こじま かずき)さん:1983年5月生まれ。飲食業界を経て2013年、医療法人社団隆靖会入職。併設の墨田中央クリニック・デイケアすみ花の責任者を歴任し、2019年4月より墨田中央病院理事・事務部長を務める。

就任後に直面したのは、医療業界独特の保守的な体質、そして「昔からのアナログなやり方」に固執した業務風景でした。その状況を「正直信じられなかった」と振り返ります。

「医事課では、膨大な紙カルテをペラペラとめくってチェックしていました。しかし紙は、その瞬間に1人の職員しか見ることができません。そのため、確認作業をほかの職員と並行して進めることができず、業務がたびたび滞っていました。

また、室内には書類があふれかえり、必要な資料を探すだけでも時間がかかる。こうした積み重ねが、残業を生み続けていたんです」(小嶋事務部長)

電子カルテに反対の声。それでも踏み切った理由

「事務部長になるとき、4つのテーマを決めたんです。『就業規則の見直し』『部署の業務の最適化』『施設基準の取得』そして『電子カルテの導入』です。現場の負担や将来への影響を考えると、最優先で着手すべきと感じていたのが電子カルテでした」(小嶋事務部長)

小嶋事務部長はさっそく電子カルテの導入に取り掛かります。しかし、現場にとってこの決断は、簡単に受け入れられるものではありませんでした。

「慣れない作業で効率や速度が落ちるのではないかといった意見がありました。何より、数億円規模の費用がかかるものですから、そこまでお金をかけるべきなのかという議論がありましたね」(小嶋事務部長)

中規模の病院経営において、億単位の投資は小さな決断ではなく、目に見える売上増に直結する施策でもありません。反対されるのはむしろ当然でした。院内には慎重な声や反対意見もありましたが、長時間労働や業務の非効率さに悩む職員がいたのも事実です。

全員が納得しなくても、腹をくくって踏み切る必要がありました。とくに人材採用への影響が深刻だったんです。面接に来た看護師に『紙カルテしかありません』と伝えると、それだけで辞退されることもありました。若い医師や看護師にとって、紙の運用はすでに想定外なんです」(小嶋事務部長)

ちょうどそのころ、社会はコロナ禍に入り、医療機関向けの資金調達環境が変わっていきました。補助金や融資制度が整い、これまでよりも資金を確保しやすい状況が生まれていたのです。

資金調達のめどが立った段階で、導入するシステムとベンダーを選定しました。

「お金は用意できました。電子カルテの選定も終えています。あとは院長がハンコを押すだけです」。小嶋事務長は、院長に決断を迫りました。こうして、墨田中央病院の電子カルテ導入プロジェクトはようやく動き出します。

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