病院の“構造的な課題”をデータで捉える
電子カルテの導入は決まったものの、どう運用すれば効果が出るのか……。小嶋事務部長は答えを見つけることができずにいました。
そこで頼ったのが、旧知の友人である塚越祐太さんでした。複数の製薬企業で営業職として働きながら、研究者として経営学・会計学・データサイエンスなどを学んできた人物です。
「塚越には『うちに来て病院を助けてほしい』と伝えました。大企業のルールやガバナンスの中で結果を出してきた彼の視点がどうしても必要だと思ったんです」(小嶋事務部長)
塚越人事総務部長は参画の背景について、「立派な志があったわけではない」と振り返ります。
「私にとって病院経営は未開の地だったので、単純に興味があったんです。制度が整えられている世界なのに、赤字になる病院があるのはなぜだろうと疑問でした。それを現場で勉強させてもらおうという感覚でしたね。経営はセンスや感覚で語られがちですが、大部分はサイエンスです。科学的な説明がなされ、再現性が重要視されるべき分野だと考えています」(塚越人事総務部長)

塚越人事総務部長が着目したのは、「誰が頑張っているか」という個人の問題ではなく、「なぜ頑張らないと回らない構造になっているのか」という点でした。
「以前から医療の現場には、構造的要因によって業務が偏り、報われない人がいると感じていました。一部の個人の努力で何とかしている状態は組織として健全ではありません」(塚越人事総務部長)
小嶋事務部長は、塚越人事総務部長のこうした考え方に強く共感したといいます。
「病院の中にいると、どうしても感覚で判断してしまう場面が多くなります。でも彼は、『どうしてそうなっているんですか』『合理的な理由を説明できますか』と聞いてくる。その視点が、当時の病院には決定的に足りていませんでした」(小嶋事務部長)
分析で見えてきた「忙しさの正体」
入職した塚越人事総務部長はデータ分析に取り組むと同時に、トイレ掃除や受付案内、クレーム対応など、入職後およそ1年をかけて院内のあらゆる業務を体験しました。
「誰がどのような仕事をしているのかを理解しないと、数字だけ見ても意味がないと思ったんです。人員配置や部門間の連携の課題を見つけられたので、とても有意義な期間でしたね」
「同じ部門でも、隣の人が何の仕事をしているのかわからない。『忙しい』とは言うけれど、なぜ忙しいのかを具体的に説明できない。さらに、部門をまたいで重複した業務がおこなわれるなど、業務の整理整頓ができていない状態だったんです」(塚越人事総務部長)

こうした実感を、データで検証することにしました。
電子カルテと勤怠データを二次利用し、職員一人ひとりの業務量を1分単位で集計・可視化するシステムを独自に開発。現場で語られていた「忙しさ」を、数字として捉え直したのです。
例えば1つの病棟看護部門にフォーカスすると、職員35人の1年間の合計勤務時間はおよそ220万分。看護記録の総数は年間で45万件以上に上ります。
これらのデータをもとに、いつ、誰が、どの業務を、どれくらいの時間おこなっているのかを洗い出したところ、人によって業務量に明確な差があることがわかりました。
「忙しさの感じ方は人によって違います。仕事量が多い人もいれば、経験や段取りの問題で効率が落ちている人もいます。データを見ることで一部の職員に業務が集中していることも、はっきりと見えてきました。
負荷が偏ると離職のリスクが高まる可能性があります。そこで、データを根拠にしながら、職員ごとに必要な支援をアレンジすることで具体的な提案ができるようになりました」(塚越人事総務部長)
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