◆「肩が当たった」で止まった電車
大手鉄道会社に勤めていた山本直樹さん(仮名・20代)。冬のある夜、都内某駅での夜勤に向かう途中だった。
「終電間際の埼京線ホームは、仕事帰りの乗客で混雑していました」
電車のドアが開いた瞬間、降りる中年男性と、乗り込もうとしていた若い男性の肩が軽くぶつかったという。
「よくあるレベルの接触だったと思います」
しかし、お酒が入っていたのか、若い男性が突然声を荒げたのだ。
「肩が当たっただろ!」
中年男性も「当たっていない!」と言い返し、口論は一気にヒートアップした。
◆二人を引き離さないと危ないと思った
電車は止まり、周囲の乗客は関わらないように視線を逸らしていた。一方、二人は睨み合い、今にも手が出そうな空気だったようだ。
「これは放っておいたら、殴り合いになると思いました」
山本さんは迷わず二人の間に入り、「落ち着いてください」と声をかけながら、距離を取らせた。鉄道会社の社員として、「まず、安全を確保する必要がある」と判断したという。
「何があったのか、順番に聞かせてください」
そう伝えると、お互いに言い分を話し始め、次第に語気が落ち着いていった。数分後、「ここで終わりにしませんか」と促すと、若い男性が先に謝り、中年男性もそれを受け入れたそうだ。
「電車が動き出したときは、車内の様子が明らかに“安堵した空気”に変わっていたので、安心しました」
電車の遅延は、10分ほどで済んだようだ。
その後、駅員に状況を伝えると、「山手線内で人身事故があり手が回らなかった。本当に助かりました」と感謝された。
「すぐに止めなかったら、傷害事件に発展していた可能性はあったと思います。そうなっていたら、電車はもっと長く止まっていたでしょうし、誰かが怪我をしていたかもしれません」
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。

