◆“名ばかりホテル”に挟まれたマンションも

「民泊を開業するからと、事業者の社長が挨拶に来たけど、ホテルになっていた……。区や議会に根回しをしていたらしく、反対しようにも何もできなかった。宿泊客は四六時中、電灯を点けっ放しで夜も騒いでる。ウチの前で、マナーの悪い外国人宿泊客がタバコを吸いながら大声で話すので困ってるけど、外国人なので言葉が通じるかわからず注意もしづらい。私道に宿泊客がクルマを違法駐車されたら、住民のクルマが出れなくなるので心配です」
だが、トラブルが起きたとき、「無人ホテル」の事業者が10分以内に駆けつける旅館業法のルールが課されているはずだ。前出・白川区議が説明する。
「連絡先は近隣住民に周知されないので、電話番号がわからない。実際、連絡先がわかっても、繋がらなかったという住民も少なくなかった。そもそも『10分駆けつけルール』は宿泊客の緊急時を想定しており、近隣トラブルについてはホテルへのお願いベースにすぎないのです」
◆苦情は宙に浮く…無人ホテルと行政の空白
向かいに建つ瀟洒なマンションの管理人女性も、困惑を隠さない。「マンションのゴミ集積所に何十袋ものゴミを捨てられたので、『関係者以外のゴミ出し禁止』『防犯カメラ作動中!』の貼り紙を出して、英語でも警告してます。清掃車の収集後に大量のゴミを捨てられたときも、次の収集までこちらで保管せざるをえなかった。苦情を入れたくても、宿泊客はすぐ帰ってしまう」
驚くことに、このマンションの裏手の建物3階にも“名ばかりホテル”があり、問題物件に挟まれた格好だ。記者が訪れたときも、大きなスーツケースを携えた中東系と思しき外国人が入っていった。
短期間に急増したホテルは、閑静な住宅街に暮らす人にとって迷惑施設に他ならない。白川区議が続ける。
「若い夫婦が子育てに適した静かな環境を求めて、民泊規制の厳しい目黒区に戸建て住宅を買って、引っ越してきたんです。ところが、深夜に外国人が出入りし、呼び鈴を押されておかしいと思ったら、隣がホテルだったという。夫婦は子育てに不安を抱き、買ったばかりの家を格安で手放し、引っ越していきました。でも、“戸建てホテル”の問題は、あまり区民に共有されていないのが実情です。近隣にホテルがあることで資産価値が落ちることを怖れて、口をつぐむ人も少なくないのです」
問題が可視化されないからか、白川区議によれば、区長の対応も後ろ向きだという。
「区長は民泊の規制はアピールするが、ホテルの問題は事実上、放置している。だから、規制が厳しいイメージが先行して、静寂や安心を求めて移り住んだ人が被害に遭う。国策のインバウンド誘客に唯々諾々と従い、迷惑を被る区民は置き去りにされてます」
所管する行政はどうか。目黒区役所生活衛生課の齋藤健太課長に質した。
「戸建ての旅館が区内に何軒あるのかは、何をもって『戸建て』とみなすか定かでないので確認してません。目黒区だけ宿泊需要が極端に増えているかはわからない。現時点では考えなくていいのかな、という感覚です。条例改正についても、具体的な形にはなっていません」
旅館業申請の際、事業者に連絡が取れるのか、「10分駆けつけルール」については、後日、「確認することがある」との書面回答を得た。全ての申請を確認しているわけではない実情を窺わせる……。
行政が実質ゼロ回答である以上、“名ばかりホテル”の急増が止まる兆しは見えない。
【白川愛氏】
目黒区議会議員。無所属無党派の改革政策集団・地域政党「自由を守る会」所属。外資系金融機関、ウォルト・ディズニー・ジャパンを経て現職(2期)


