
金(ゴールド)が日々取引されている「金市場」。他の市場とは違って、金の売買がしやすい「流動性」と金の総量に対して取引量が少ない「薄商い」という2つの特徴が両立している点が珍しい。この均衡は「金のパニック買い」が起きた場合、一瞬にして崩壊することが予想されるという。2026年に入ってからの金価格の乱高下は、今後また混乱が起こることを予期させる。本記事では、ジム・リカーズ氏の著書『The New Case for Gold 投資の正解が見えない時代でも、ゴールドだけは裏切らない』(APJ Media 合同会社)から、実際に「金のパニック買い」が起きた場合を想定した金市場の変化を解説する。
金市場の特徴は「流動性」と「薄商い」の両立
株式、債券、コモディティなどの市場と比べると、金市場には珍しい特徴がある。
金(ゴールド)には流動性があり、投資家は流動資産に金を容易に組み入れることができる。「流動性がある」とは、市場への影響を最小限に抑えながら比較的容易に金を売買できることを意味する。つまり、投資家の取引によって市場が停滞することはなく、投資家はすぐに(買い手でも売り手でも)取引相手を見つけることができる。
その一方で、金市場は薄商いである。「薄商い」とは、金の総ストック量に比べて取引量が非常に少ないことを意味する。なぜ金市場には珍しい特徴があるのかと言うと、薄商いの市場は、通常は流動性があまり高くないからだ。
ところが金市場に関しては、取引量は多くないのに、取引したい当事者が多いため流動性がある。「流動性」と「薄商い」の組み合わせは珍しい。
金を売りたいのに買い手が見つからないとか、金を買いたいのに買えない、という状況を筆者は見たことがない。
それでも、実際に取引される金現物の量は、世界の総ストックと比べるとあまり多くない。金が薄商いなのは、中央銀行でもインドの花嫁でも、金保有者のほとんどが長期に保有しており、株式や為替の投資家のようにすぐに売買するつもりがないからだ。
つまり、現在の金市場の流動性は、パニック買いが生じたら瞬く間に枯渇する可能性がある。何百万人もの人々が一斉に金を買いに走るが、長期保有者は金価格が高騰したとしても売るつもりはない。通常は、価格が上昇すると売り手はもっと売ろうとするため、均衡が取り戻される。これが基本的な「需給調整」の機能だ――おそらく、経済学入門の授業で習ったことがあるだろう。
だが、「金価格の上昇」だと思われていた現象が、実際には「通貨の信認の崩壊」を表していた場合には、目の前に大量の紙幣を積み上げられても金保有者は金を手放さないだろう。
金価格が上昇すると、もっと売りたいと思うどころか、売りたくないと思う。なぜなら、市場の完全な崩壊という終幕が想像されるからだ。そうなると、「パニック買い」を食い止めるには、政府が金を大量に売却するか、金の新たな固定価格を設定するしかないだろう。
現実の世界では、パニックの原因として、何が考えられるだろうか。
金の「パニック買い」はどう起こる?小口投資家でもできる対策
まず、中国で信用危機が発生し、取り付け騒ぎが起こるかもしれない。2015年半ばに始まった中国の株式市場崩壊で、すでにそのような兆候が見られた。中国ではいまだに自由な資本取引が制限されており、小口投資家は海外に投資することができない。中国の一般投資家は株式や不動産で損失を出しているが、銀行は魅力的な利子を提供していない。だとしたら、中国の投資家は何をすればよいか。金を買えばよい。
最近、筆者は香港で、世界有数の金取り扱い銀行のコモディティ・トレーダーに会った。彼は、中国の需要ショック(訳注・突発的な出来事で需要が急変動すること)がパニック買いに発展する可能性がある、と予想していた。
もう1つのシナリオは、金取引業者が大口顧客に契約どおりの金を引き渡せない、というものだ。このような不履行の話が漏れると(こういった話は必ず漏れる)、ペーパーゴールド関連商品に対する信認が失われ、ペーパーゴールド契約を金現物に換えるために、投資家が一斉に先物取引向け金保管倉庫や銀行の金保管庫からの引き渡しを求めるだろう。
全員の要求に応じるだけの金現物がないため、さらなる不履行が生じる。金保管業者や金取引業者は、引き渡し義務を無効にして現金で決済するために契約の「不可抗力条項」を行使するが、パニックを悪化させるだけだろう。なぜなら、投資家は契約で同意した金を手に入れられないことに気づき、その代わりに別の業者で金現物を買おうとするからだ。すると、瞬く間に制御不能に陥り、さらに広範囲のパニック買いに発展するだろう。
短期的なテクニカル・ベースでは、金価格は当面は緩やかに上昇し、やがて上昇のペースが加速してスーパースパイク(超急騰)の段階に達する(これがパニック買いだ)と予想される。
問題は、多くの人が時流に乗ろうとするが、そのときにはもう金が手に入らなくなっている可能性がある、ということだ。金現物の供給が少なすぎて、高値を払ってでも買えないときが来るかもしれない。
すると投資家は「金がなくなるタイミングのどのくらい前に買う必要があるか」と質問するだろう。金がなくなるまでどれだけの時間があるのか、という意味の質問であれば、筆者はこう答える。「何をためらっているのか」と。
今すぐ金現物を買い、安心を手に入れるべきだ。パニック買いが起こるのを見計らってはならない。パニック買いが起こるのに気づいたときにはすでに手遅れであり、小口投資家は金現物を購入できないだろう。価格の問題ではない。金現物が手に入らないのだ。
賢明な方法は、今すぐに金を買い、安全な場所に保管すること。そうすれば、パニック買いが起こっても巻き込まれることはない。
ジム・リカーズ
APJ Media 合同会社
編集長/地政学者/経済学者/弁護士
