◆歯科業界独特の「言葉選び」を見直す

高橋:歯科業界で当たり前に使われている言葉が患者さんとの間に誤解が生まれ、円滑なコミュニケーションが妨げられてしまいます。
――たとえば、どのような言葉があるのでしょうか。
高橋:再来院を促す際に使われる「リコール」という言葉があります。一般的には「不良品の回収」を意味しますが、歯科業界では「定期的な来院の呼びかけ」という意味で使われています。
しかし、この業界特有の用法を知らない患者さんが「リコールはがき」を受け取った場合、「前回の治療に問題があったのでは?」と不安に感じてしまっても不思議ではありません。
にもかかわらず、歯科業界ではこの言葉を使い続け、再来院率が低いことを「リコール率が低い」と問題視しているのです。しかし、この「リコール」という言葉の使い方は本来の意味とかけ離れており、違和感がありますよね。
そもそも、再び来院するかどうかは患者さんの自由であり、歯科医院はあくまで「来院を促す」立場にあるはずです。
――「メンテナンス」という言葉にも注意が必要だと話されていました。
高橋:「メンテナンス」と「予防」は意味がまったく違います。メンテナンスとは、何かを購入したり、処置をしたあと、そのいい状態を保つために行ったりするものです。
処置をしていない健康な方に「メンテナンスに来てください」と言っても、違和感があるのは当然です。車を買ってもいない人に「車のメンテナンスに行きましょう」と言っているようなものです。
歯科業界で当たり前に使われている言葉について、主語と目的語の関係を正しく整理し、わかりやすく解説しています。こうした取り組みにより、患者さんとの向き合い方が見直され、リピート率の向上にもつながっています。
◆保険が使える「予防歯科」はもっと活用されるべき
――最後に、予防歯科の可能性と今後の展望についてお聞かせください。高橋:予防的診療に国民皆保険が適用される歯科医療には、大きなポテンシャルがあると考えています。眼科の視力矯正や内科の定期健診などは保険が適用されないことも多いですが、歯科では予防のための定期的な口腔ケアにも保険が使えるのが特徴です。
国は、私たち国民が健康を維持できるよう、保険証を使って口腔ケアを受けられる制度を整えています。例えば、本来1万円以上かかる健診費用を、3000円程度で受診することができます。これは言ってみれば、「健康を守るための割引チケット」のようなものです。
しかし、実際にはその価値に気づいていない人が多いのが現実です。口腔ケアを目的とした定期健診は年4回通うことを推奨しています。3000円を4回、つまり月々約1000円の負担で一生の健康につながるケアが受けられるのに、それを生かせていないのは、本当にもったいないことです。
――歯科医院のあり方そのものが変わっていきそうですね。
高橋:歯科医院が自分の健康を維持したり、もっと高めたりする目的でコンビニやユニクロのように、誰にとっても身近で、日常的に利用される存在になることを目指しています。歯科に通って口腔の健康状態をチェックすることが自然で当たり前の行動として社会に定着していく未来をつくっていきたいと思っています。

