
相続では通常、法定相続人と呼ばれる「亡くなった人の財産を相続する権利を持つ人」のなかで行われます。そしてこの法定相続人の範囲に、家族の配偶者は含まれません。では、法定相続人以外に財産を遺すためにはどのような対策が必要なのか、事例をもとに見ていきましょう。
遺産分割協議に参加した“長男の嫁”
ある日曜日の昼下がり。マユミさん(仮名・55歳)の自宅では、3週間前に他界した義母(享年83歳)の遺産分割協議が行われようとしています。
出席者は、マユミさんと、夫で長男のコウイチさん(仮名・56歳)、次男のミツルさん(仮名・50歳)、そして遅れて到着した長女のクミコさん(仮名・54歳)の4名です。
遅刻してきたにもかかわらず、クミコさんは「忙しいんだから、早く終わらせましょう」と早口でまくし立て、「あっ、お義姉さん、わたしにはお茶じゃなくてコーヒーお願い」と、当然のようにマユミさんへ指図します。
クミコさんは独身でキャリア志向のビジネスパーソンです。現在は部長職で10人以上の部下を抱えています。若い頃から上昇志向が強く、パート主婦や専業主婦をどこか見下すような態度が言葉の端々ににじみ、専業主婦のマユミさんのことも「仕事をしていない暇な人」と捉えているようで、どこか軽んじた態度を隠そうとしません。
マユミさん本人をはじめ、夫のコウイチさんも義母も、家族全員がその態度を快く思っていませんでした。
「じゃあ、みんな揃ったし、そろそろ始めようか」
コウイチさんが切り出したその瞬間、クミコさんがすかさず口を挟みました。
「あれ、義姉さん、まだいるの? これから遺産の話をするんだから、義姉さんには出てもらっていたほうがいいんじゃない?」
その言葉に、次男のミツルさんは声を荒げます。
「おい姉貴、いい加減にしろよ!」
「なにが? だって、義姉さんは相続人じゃないんだから。事実でしょう?」
しばらく気まずい沈黙が続いたあと、口を開いたのはマユミさんの夫・コウイチさんでした。
「いや、マユミにもここにいてもらうよ。母さんはマユミにも財産を残してるんだ。むしろ、関係ないのはクミコ、お前のほうだよ」
「はっ、どういうこと?」
予想外の言葉に絶句するクミコさん。そして、マユミさんも驚きを隠せません。
「献身的な義娘」と「なにもしない娘」
実はマユミさんは、義母が亡くなるまで約6年ものあいだ、ほぼ1人で義母の介護を担ってきました。
マユミさん自身は実母を早くに亡くしていたため、義母を本当の母のように慕っていたことから介護することに不満はなく、愚痴をこぼすこともほとんどありませんでした。義母もまた、マユミさんを深く信頼し、献身的な介護にいつも感謝していたといいます。
一方のクミコさんはというと、母のもとに顔を出すのはせいぜい3〜4ヵ月に1回程度。特に介護を手伝うわけでもなく、いつもマユミさんが用意した夕食だけは平らげて帰っていきます。
そんな対照的な2人の姿を見ていた義母は、「なんとかしてマユミさんにも財産を遺したい」という思いを強めていったようです。義母はコウイチさんに相談し、1,000万円の死亡保険金の受取人をクミコさんからマユミさんへ変更。さらに、遺言書も作成していました。
その内容は下記のとおりです。
「財産は、長男と次男で話し合って2人で分けること。長女へは、遺留分以外の財産は渡さない」
