
税務調査で申告ミスや漏れが見つかると、納税者はさまざまな負担を強いられることになります。追徴課税で金銭的負担が発生するのはもちろんのこと、精神的負担や時間的拘束、取引先への影響など、納税者を取り巻く状況は大きく変化します。本記事では、国税庁出身の税理士・廣田隆幸氏による著書『顧問税理士のための税務調査の連絡が来たら読む本』(中央経済社)から、非違が発見された場合に実際に起きることと、その金銭的影響の現実について解説します。
税務調査で「非違※」が見つかった場合に起きること
申告所得税、法人税、地方法人税、消費税、相続税、贈与税などの申告納税方式の国税は、納付すべき税額が納税者の申告によって確定することを原則とし、その申告がない場合又はその申告に係る税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていない場合その他当該税額が税務署長又は国税局長(以下「税務署長等」とします)の調査したところと異なる場合に限り、税務署長等の処分(更正又は決定)によって確定することとされています(通則法16①一)。
そのため、税務調査で非違が見つかった場合、納税者がそもそも申告を行っていなければ期限後申告を行い、申告を行っていた場合は当初の申告を修正する申告を行うこととなります。納税者が非違に係る申告を行わない場合は、税務署長等は決定又は更正という処分により納付すべき税額を確定することとなります。
税務調査で、申告に計上されていない収入があること、費用にならないものが計上されていること、費用に係る証拠書類がないこと、あるいは法令の適用誤りなどの非違が見つかった場合に起きることを簡単に説明します。
※非違(ひい)……税務においては、たとえば納税申告や計算の誤り、義務の不履行、不正行為など、税法や関連規定に違反している状態を指す
心理的・精神的負担の増加
納税者・代表者だけでなく非違に関係する取引に関わった従業員、家族などは「大変なことになってしまった。どうしよう……」「調査はいつ終わるんだろう。どこまで調べられるんだろう」「〇〇の件が明るみに出たらどうしよう」「いくら取られるんだろう」「今後の事業や資金をどうしよう」などと思い悩み、精神的な負担が大きくなります。
その結果、不眠症になったりして体調を崩す方も結構いらっしゃいます。
時間の拘束、事務負担の増加
調査へ対応するために、納税者・代表者、従業員、家族などは時間が拘束されますし、書類やデータの整理・作成・複写などの事務負担も増えます。
さらに、調査の処理に納得がいかなかった場合、不服申立てや訴訟の提起による負担も生じます。
取引への悪い影響が懸念
調査担当者は、取引の実態を解明し、非違の内容を確認し、証拠を収集・保全するために取引先に確認調査(「反面調査」と言います)を行う可能性が高くなり、取引先がその対応に労力を取られるなど迷惑をかけるおそれがあります。
また、取引先(特に売上先)の中には、調査を受けている納税者との取引があることをなるべく伏せたい、知られたくないと考えている場合もあります。
そういった取引先に調査担当者が反面調査に行くと当該納税者と取引していることや取引内容が取引先の中で担当者以外の人々などに知られてしまい、以後の取引が停止になる可能性が高くなります。
さらに、納税者・代表者側に取引の記録がなかったり、不正確だったりするなど、契約通りの処理をしていなかったことなどが取引先に知られた場合、取引が停止となる、損害賠償を求められるなどの実害が生じるおそれがあります。
金銭的負担の発生
税務調査では、調査結果に基づいて、過去(原則3年分・事業年度)まで遡って追徴課税されます。調査により認定された税額と確定申告で納付等した税額の差額を納めなければなりません。
個人の実地調査(特別・一般)の追徴税額、所得税は312万円(本税261万円、加算税51万円)!
まず個人の所得税・消費税の追徴税額を確認します。令和6年11月に国税庁が発表した令和5事務年度の所得税の調査等事績のうち実地調査の数値(図表1)を見てみましょう。
(図表1)令和5事務年度の所得税の調査等の状況 (出典)令和6年11月 国税庁発表
令和5事務年度における所得税及び消費税調査等の状況についてhttps://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2024/shotoku_shohi/index.htm令和5事務年度所得税及び消費税調査等の状況(PDF/641KB)を加工して作成しています。
(図表2)「申告漏れ等の非違件数」で1件当たりを計算した場合
国税庁が発表した資料(図表1)の⑧~⑩に1件当たりの追徴税額が示されています。
実地調査の「計」の欄を見ると、1件当たりの追徴された本税(申告した申告納税額と調査による税額の差額)は188万円※1、追徴された加算税は36万円※2、合計で224万円※3となっています。
この数値は、④から⑥の数値を、調査等件数①で割ったものとなっていますので、調査等件数1件当たりの数値となります。この場合、非違が発見されなかった(申告是認となった)件数も分母の①の数値に入っています。
しかし、調査で追徴される税額を現実的に考えるのであれば、調査を実施した1件当たりではなく、非違があった1件当たりを考慮すべきと私は考えています。国税庁の資料を加工した「(図表2)「申告漏れ等の非違件数」で1件当たりを計算した場合」の⑪から⑬をご覧ください。
所得税の実地調査の「計」をみると、申告漏れ等の非違件数1件当たりで計算した追徴された本税は223万円※4、加算税は43万円※5、合計で266万円※6となります。
なお、実地調査の中で短期間では終わらない調査である「特別・一般」をみると、申告漏れ等の非違件数1件当たりで計算した追徴された本税は261万円※7、加算税は51万円※8、合計で312万円※9にもなっています。
個人の所得税の税務調査で非違が見つかると、1件当たりの平均で本税と加算税だけでもこれだけ多額の追加の納税が生じうるのです。
