「苦労することと幸せであるということは無関係」障害児を家族として迎えた元牧師の主張

「苦労することと幸せであるということは無関係」障害児を家族として迎えた元牧師の主張

◆一人でも多くの子どもに「帰る家」を作ってあげたい

 松原さんは現在も、寄せられる相談に一つひとつ向き合いながら、養育を担うことができる家庭との橋渡しを続けている。ただし、特別養子縁組のあっせんは違法となるため、「活動には限界がある」とうなだれる。

「現状では、相談を受けて、養親候補に紹介するところまでしかできません。それでも、誰かが動かなければ、子どもはそのまま取り残されてしまう。何もしないよりは、前に進もう。そう思っています」

 以前は自身で立ち上げた「NPO法人みぎわ」で同様の活動を行っていた。

「社員がいる組織において、法を犯す可能性があることはさせられない。でも、彼らを守ろうとすると、子どもが守れなくなる。活動を続けることで社員に負担を強いることはできないと思い、『みぎわ』から離れました。万が一、この活動のせいで自分が逮捕されたとしても、それで孤独な子どもがいると知ってもらえるなら、それでもいいと思っています」


◆二人が教えてくれた、新しい価値観と幸せ

 やまとくんと過ごす中で、松原さん自身の価値観も変わったという。

「やまとは自分と人を比べず、彼のなかに勝ち負けも優劣もないんです。やまとと一緒にいると、一人ひとりがオリジナルの成長をすればいいと思わせてくれる。人と比べることの愚かさを彼に気づかされました」

やまとくんは最近、おもちゃが入っている箱を振ったり動かすのがお気に入りだそう。「遊び方もオリジナルで発見だらけです」(斉子さん)
 えまちゃんは現在も入退院を繰り返している。それでも、帰るべき家がある。

「正直なところ、彼女はいつまで生きていられるかわからないレベルの難病です。でも、障害があっても、病気があっても、帰れる家を作ってあげたい。やまととえまは、たまたま我が家と出会えましたが、今も日本のどこかに帰る家がない子どもたちがいます。子どもたちは、守られるべき存在。それだけは断言できます」

 話を聞けば聞くほど大変そうだが、それでも松原さんは「幸せだ」と笑みを見せる。

「やまととえまがいてくれる幸せは何ものにも代えがたいんですよ。もちろん、金銭面や体力面では苦労しっぱなしです。でも苦労することと、幸せであるということはまったく関係がないんだなと痛感しています」

筆者が持つカメラが気になって近づいて来たり、手を摑んで握手をしたりしつつも、テレビで流れる子ども向け番組にくぎ付けのやまとくん。自由だ
 松原さんへの取材を終えてほどなく、やまとくんが帰宅。“知らないおじさん”である筆者を前に最初こそ戸惑っていたが、カメラをかまえると手をまっすぐのばしてきた。繫いだその手はとてもあたたかく、そして力強かった。その様子を見つめる松原さんと妻・斉子さんの表情は慈愛に満ちており、この瞬間こそが彼らにとっての「幸せ」なのかもしれないと思った。

 行き場のない命と向き合う日々は、決してきれいごとだけではない。それでも松原さんは、これからも子どもたちの“小さな命の帰る家”を見つけるために奔走する。

「小さな命の帰る家」代表
松原宏樹さん
1968年3月1日生まれ。元奈良キリスト教会牧師。奈良キリスト教会付属幼稚園園長、NPO法人みぎわの立ち上げを経て、2023年「小さな命の帰る家」を設立。著書に『小さな命の帰る家』(燦葉出版社)がある

取材・文・撮影/松嶋三郎

―[[障害児と牧師]幸せの物語]―

【松嶋三郎】
浅く広くがモットーのフリーライター。紙・web問わず、ジャンルも問わず、記事のためならインタビュー・潜入・執筆・写真撮影・撮影モデル役など、できることは何でもやるタイプ。X(旧Twitter):@matsushima36
配信元: 日刊SPA!

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