◆判決の日は求刑50年も
雲行きが怪しくなった兆候は少しまえから感じてはいたとEさんはいう。
「顔つきが変だったし、誰かに見られている気がするとよくいっていたんです。目が血走っていて暴力的だった時期もあります。フルスロットルでバイクを走らせ自損事故を起こして、バイクが真っ二つということも」
なんとなくおわかりかと思うが、薬物使用のある意味典型的な症状である。タイは大麻使用について比較的寛容に見えるかもしれないが、その他の薬物は、種類によってはかなり厳しい刑罰が待っている。
「事故のときなどに警察で尿検査をしていればよかったと今になって思います。そのときはヤーバーを使用していることをワタシは知らなかったので」
ヤーバーは昔からタイで出まわっている安価な覚せい剤の一種だ。取り締まりが緩くなっていた時期はタバコよりも安いのではないかというほど相場が下がっていた。

Eさん夫は根が穏やかでまじめだった。普段、酒も飲まない。結果、妻にも相談できないまま、そのストレスをヤーバーでまぎらわせるようになってしまった。そのうち薬物依存でよく見られる被害妄想が強くなり……。
「金曜日に仕事がおわらないからと帰ってこない。土曜になってもこない。どうも、金曜日の電話のあとに火をつけに行ったみたいです」
被害妄想がふくらみ、誰もが自分の悪口をいっていると思いこんだ。そうして、その矛先は親戚の伯父に向いた。Eさん夫はEさんが電話をした時間帯にペットボトルを使用した火炎瓶を作っていたようで、電話のあと火炎瓶を伯父の自宅に投げた。土曜に帰ってこなかったのは、すぐに警察に逮捕されたからだ。
「日曜に警察署に会いに行ったときは、ヤーバーが切れてなかったらしく留置場で叫んでいました。その後の裁判などで手錠を見たときはショックで、さすがに泣きました」
逮捕からおよそ4か月後、判決が下る。こういった事案が多いので、流れ作業のように複数の被告が法廷に立ち、判決が出ていくのだそうだ。
「時間どおりに裁判がはじまらないのはタイらしいですよね。そのうち、がしゃんがしゃんと足枷の鎖の音が聞こえてきましたが、全然違う人が入ってきました。夫もそうなのかと思うと、ショックで目が点になりましたね。その人はヤーバー6万錠を運んでいたらしく、懲役50年の判決でしたよ。夫は3年半でした。逮捕当初は情けなくて泣いたけど、判決が出たときは涙も出ません。判決のあと少しだけ家族と話す時間をくれるのですが、夫はごめんと謝っていたことを憶えています」
こうしてEさんと夫は離れ離れになった。が、まったく会えないわけではないらしい。しかも、ガラスや鉄格子を隔てた空間で話すのではなく、ちゃんと触れあえる距離で会えるようである。
◆刑務所のファミリーデイでお祭り気分


Eさん夫が収監されたパンガー県の刑務所はファミリーデイのほか、『LINE』を使った隔週15分間のビデオ通話もできる。
このビデオ通話はタイ国内の刑務所いくつかでできる。家族などが予約サイトに登録すれば話せるもので、そのサイトを見るとすべての刑務所ではないものの、そこそこの数が対応していた。おそらく罪状があまり厳しくない受刑者を収監するところなら可能ということなのだろう。
ファミリーデイは受刑者ひとりに対して5人まで入ることができる。予約制で朝の部、午後の部に分かれているという。受刑者たちが中庭に出店のようなものを造り、入場時に購入するクーポンで食べものなどを買うことができる、ちょっとした学園祭のような。
「ただ、そのまま入れるわけではなく、靴は脱がされました。アクセサリーもダメ。でも、バンドが入ってて案外にぎやかですし、ハートのオブジェが設置され、受刑者と写真撮影もできる。2時間はあっという間でした」
受刑者もこのときは囚人服ではない。そんなのんきな時間も過ごせるのだが、夫だけでなく、Eさん自身にも問題が忍び寄ってきていた。ビザ問題だ。

