「夫が刑務所行きに」タイ人男性と結婚した日本人女性を襲った“過酷な現実”

「夫が刑務所行きに」タイ人男性と結婚した日本人女性を襲った“過酷な現実”

◆夫がいることが前提の配偶者ビザ

 タイの配偶者ビザは延長時にタイ人配偶者本人と共にイミグレーション警察を訪問し、延長手続きを踏まなければならない。もし子どもがいれば、子どもも学校を休ませていく必要がある。これが原則だ。

 夫が刑務所に入ってしまったEさんの場合、その原則を守ることすらできない。逮捕時はどたばたでそんなことに頭が巡らなかったが、落ち着いたときにふと数か月後に迫る滞在期限を思い出した。

「すぐにプーケット県のイミグレーションまで行って何人もの係官に話を聞きました」

 ここはタイあるあるで、係官によって法令の解釈が異なる。そもそも、受刑者を夫に持つ外国人女性が珍しすぎる。大概は離婚してしまうこともあって、係官もこういったケースではどうなるのかわからない。ある人はダメだというし、別の人は夫に延長申請書類にサインをさせればいいという。

「サインを面会日にもらいに行きました。けれど、結局正式に延長は不可と通達されました」

 これによりEさんは期限内に国外に出なければならなくなった。とはいえ、別のビザを取得する方法が残されている。年齢的には年金生活者向けのリタイアメント・ビザも申請できる。というのは、タイのこのビザは満50歳以上が条件で、実際に年金受給をしているか否かは申請要件に関係ないからだ。

 ビザを問題なく取得できても、再入国時にタイ政府が厳しく目を光らせる。近年、東南アジア圏内に中国人マフィアが特殊詐欺拠点を設けていることもあって、外国人の入国審査が厳しい傾向になったのだ。特に長期滞在後に別カテゴリーでビザを取り直して再入国する人は目をつけられやすい。ここに来て、さまざまなタイの問題点までがEさんにのしかかってくる。

 配偶者ビザはタイ人の夫や妻がいることが前提だが、その「いる」は物理的にそばに存在していないといけない。婚姻関係にあっても離れていてはいけない。延長申請時に夫婦でイミグレーションに出向くが、その際には一緒に暮らしている証明を写真でいいので提出しなければならない。誰もがそれが普通だと思っていたものだが、よく考えてみれば他地域に単身赴任で出稼ぎに出ることになったり、配偶者が当ケースのように刑務所に入ってしまったら。

 結局、タイのビザは、諸条件がシンプルゆえに、やっぱり難しいのである。

◆それでもワタシは見捨てない


船
小島からプーケットや本土に出るには1日数本もない船を待つしかない
 パンガー刑務所はプーケット県内のEさん自宅から片道120キロはある。プーケットをはじめ、タイ南部は島が多い。プーケット県はタイ唯一の島の県だが、実際には本土と橋でつながっているくらいに近い。

 他方、Eさん夫の出身地のように、小さい島の場合、プーケット県や本土に出ることも容易ではない。

「島出身の受刑者だと家族が面会に簡単には来られないので、そういった受刑者の中には誰とも会えず、それを苦に自殺する人もいるみたいです」

 Eさんの友人や知りあいはみな「もう夫のことは忘れたほうがいいのでは?」というそうだ。しかし、Eさんはいう。

「今はまだ別れません。とりあえず刑務所で反省して立ち直るまで。関係はそのあとに考えるつもりです。縁があって一緒になった人だから、彼を見捨てられない。今回だけ。家族だから、今回は立ち直るチャンスをあげたいです。彼は面会に来なくていいとはいうけど、行ったらやっぱりうれしそうな顔をするんです。収監された最初と今では顔つきも変わってきましたし」

注文書
刑務所への差し入れは注文書に書くと、中で受け取れるようになっている(Eさん提供画像)
 毎年ビザを普通に延長するだけでも大変だが、Eさんの問題は山積みでもある。現時点では夫がヤーバーに走ってしまうきっかけになったあの女性の居場所も突き止めていて、少しでも夫の損を取り戻せるようにEさんは戦っているところでもある。

<取材・文・撮影/髙田胤臣>

【髙田胤臣】
髙田胤臣(たかだたねおみ)。タイ在住ライター。初訪タイ98年、移住2002年9月~。著書に彩図社「裏の歩き方」シリーズ、晶文社「亜細亜熱帯怪談」「タイ飯、沼」、光文社新書「だからタイはおもしろい」などのほか、電子書籍をAmazon kindleより自己出版。YouTube「バンコク・シーンsince1998│髙田胤臣」でも動画を公開中
配信元: 日刊SPA!

提供元

プロフィール画像

日刊SPA!

日刊SPA!は、扶桑社から発行する週刊誌「週刊SPA!」が運営するニュースサイトです。雑誌との連動はもちろん、Webオリジナルの記事を毎日配信中です。ビジネスマンが気になる情報を網羅!エンタメ・ライフ・仕事・恋愛・お金・カーライフ…。ビジネスタイム、プライベートタイムで話したくなる話題が充実!

あなたにおすすめ