
「早朝に清掃業者が入るのでパッと見はきれいなんですけどね」
そう話す彼が、道路沿いの穴が開けられた配電盤や壊された車止めに手を入れると、紙くずやペットボトル、空き缶、食べ残しの生ゴミなどが詰め込まれていて、まるで即席ゴミ箱だった。ほかにも、排水溝にはふやけた吸い殻が浮かんでいて、それを手やトングを使ってゴミ袋に入れていった。
大通りから裏路地に入っていく。ラブホテル街に向かう階段は路上飲みスポット化していて、酒の空き缶やウイスキーの空きビンなどが散乱。また階段と雑居ビルの隙間をほうきで掃くと、使用済みのゴムやら「ラブブ」らしき人形、精力剤の空き瓶まで現れた。スミレンジャーZさんは、「エリア的には使用済みのオトナのオモチャ、コスプレ衣装なんかも多い。モラルもそうですけど、『ここは捨てても大丈夫だろう』と思われやすい場所にゴミが溜まっていく」と憤る。ほかにも、閉業したラブホテルの敷地内には、回収されなかった事業ゴミが無造作に投げ込まれていた。


◆渋谷のゴミが減らない理由は「利権絡みの構造」
クラブ帰りの若者や通勤に急ぐ社会人が、彼の横を通り過ぎていく。立ち止まるのは、 “本物”と勘違いして面白がる訪日外国人ぐらいだ。「注目されるためにやっているわけじゃないし、パフォーマンスではない。朝10時までには終わらせないと通行人が増える。トラブルに巻き込まれたというヒーローもいる。だから黙々とやるだけ」
約1時間半の清掃で、200リットル収納の大型キャリーカートは、ゴミ袋10袋近くでぱんぱんに。近くの公園でゴミの分別をしたら、最後に活動記録として収拾したゴミの山を写真に撮ってXに投稿。これにて本日の任務は完了だ。

「ゴミ箱を増やすのがいちばん効果的ですが、行政は『区民の税金で負担を強いるわけにはいかない』として拒んでいる。しかし、それはゴミがなくなったら問題ありきのビジネスが止まる。ポイ捨てした人への過料はいいと思いますが、店舗のゴミ箱設置の義務化は意味がない。行政主導ではなく、店舗側に責任転嫁しているだけ。そういう利権絡みの構造がはびこっている限り改善しないですし、区長をはじめ、まともな議会にならないと根本は変わらないです」
多くの政党から「議員に興味ないか?」と誘われているそうだが、「現地の目線を持って身近な問題を解決する地域のヒーローでいたい」と断っている。
◆ヒーローの自宅は家賃5万円のワンルームで「質素な生活」
そんなヒーローはどんな私生活を送っているのか。スミレンジャーZさんが住んでいる杉並区・方南町の自宅にお邪魔した。駅から15分ほど歩いたところにある家賃5万円のアパート。6畳のワンルームに通されると、幼少期から好きだというヒーローのフィギュアがたくさん置かれていた。そんな彼がボランティア活動に目覚めたのは、14歳だったという。「4歳年上の兄が優秀で、中学では生徒会長を務め、成績はいつも学年トップだった。親には『兄を見習いなさい』と何度も言われていました。幼い頃から発達障害を抱えていた私は、学校の勉強についていけずに中学ではいじめの対象になってしまい、不登校になりました。自宅に引きこもっているときに知り合いから誘われたのが、保育園で子供保育をするボランティアだったんです。自分は落ちこぼれだと思っていたけど、保母さんや子供たちから『ありがとう』と言われたことが嬉しくて、ボランティアにのめり込んでいきました」
それから前身のヒーロー“スラウザー”として活動を開始。2017年に渋谷のハロウィンで清掃ボランティアしたことを機に、渋谷が“バトルフィールド”になった。だが、24歳で転職した企業で上司からパワハラを受けてうつ病を発症。ヒーロー活動は休止に追い込まれる。そんな危機から救ってくれたのが、彼が師匠と慕う方南町のリアルライフヒーローである、“ベビーカーおろすんジャー”だ。
「活動初期に会いに行き交流が始まり、精神的に病んでいたときにも励ましてくれました。師匠はお世辞にも仕事ができる人ではないけど、とにかく地域の人たちに愛されている存在。本人も誰かに自慢するわけでもなく、コツコツ継続している。その姿勢は、私の今の活動の信念にも繫がっていると思います。師匠はすでに引退されていますが、“方南町”と書かれたこのプロテクターと思いは引き継いでいます」


