◆「印象に残らなかったら負け」(娘)vs「これが若い子の感覚か」(母)

ーー美幸さんが会社のトップになってから、会社にはどんな変化があったのでしょうか?
美幸:まず、副社長になったときの第一声で、社員の皆さんに「噂話やいじめは私が絶対に許しません」と宣言しました。それから、会長になってからは、休みが不規則だった建設業界ではまだ珍しい「4週6休制」を導入して福利厚生を整えました。そして、これは亡き夫と前から構想していたのですが、勤続30年以上1000万円の定年退職金制度の導入。これは、職人さんへの感謝の気持ちと老後も豊かに暮らしてほしいという思いもこもっています。

七海:会社の皆さんに面倒みてもらいながら楽しく働いています。礼節さえわきまえていれば、社風もめちゃくちゃ自由! すっぴんで、おさげで出社しても、ネイルをしてても誰も何も言いません(笑)。正直、前の仕事の方が、髪色とか厳しかったな……。
美幸:実は、私は入社前にちゃんと、「金髪はやめてね」って言ってたんですよ(笑)。
七海:だから何度も言ってるけど、ハイライトだけだって!
美幸:若い子の感覚がわからないの(笑)。でもね、彼女を見ていると、「金髪だから仕事できないの? それって私の個人的な好き嫌いじゃない?」「金髪がダメなら、外国の方雇えなくなっちゃう」なんて考え直すようになってきて……。今は七海に学ばされたなって思うんです。
母としては娘に対して、「そろそろ髪色を染めたら?」と言うことはあります(笑)。けど、会長としては言わない。そこはちゃんと分けてます。
七海:私は別に目立ちたくてやっているわけじゃないけど、印象に残らないより、残った方が勝ちだと思ってて。たとえば仕事先に挨拶に行くとき、あとから「誰だったっけ?」ってなるより、「金髪の人だよね」って覚えてもらえたら、そっちのほうが絶対にいいじゃないですか。良かろうが悪かろうが、印象に残らなかったら負けだし、悲しい。
美幸:すごい考えてるんだね(笑)。
◆「自分たちの仕事は底辺」職人の言葉に受けた衝撃
夫が存命のとき、美幸さんは社員から忘れられない言葉を聞いた。「俺たちの仕事は底辺だからな」看護師として働いてきた美幸さんにとって、その言葉は衝撃だった。日本のインフラを支える職人が、なぜ自らをそう呼ぶのか。「業界を変えなければいけない」という覚悟は、その瞬間に固まったという。

美幸:以前、うちの会社で働く職人さんから言われた中で忘れられない言葉があるんです。「自分たちの仕事は底辺だから」って……。おかしくないですか? 日本の職人技術って、世界に誇れるものなのに。本人がそう思わされてる社会が、私はすごく申し訳ないと思ったんです。
だからこそ、まずは、うちの会社から、「俺、この会社で働いてるんだ」って胸を張れる場所にしたいですね。
ーー七海さんは?
七海:私は事務員さんと同じフロアで働く職員でありながら、会長である母との距離も近い。そのポジションを活かし、社員の皆さんの声を聞きながら、取締役との橋渡しができる存在になれたらいいなと思っています。
厚生労働省の発表によれば、建設業の管理職に占める女性の割合は、いまだ1割に満たない。数字だけ見れば、変化はわずかだ。だが、金髪で出社する女性社員と、看護師出身の女性会長が並ぶ建設会社は、確実に“前例”をつくっている。
「自分たちは底辺だ」と言わせない会社にしたい。そう語る母と、「印象に残らなかったら負け」と笑う娘。男社会のど真ん中で、この違和感はまだ小さい。だが、変化はたいてい、違和感から始まる。
<取材・文/田中慧(清談社)>

