
年金月30万円、資産6,000万円。勝ち組人生を歩んできた76歳主婦でしたが、妹から届いた「孫6人の年賀状」を見て、思わず胸がざわつきました。お金も地位も、自分のほうが上のはず。それなのに、なぜ——。夫の定期検診をきっかけに浮かび上がったのは、資産では埋められない老後の不安でした。未婚の子を持つ親世代が、今、静かに直面し始めている現実とは? FPの三原由紀氏が解説します。
勝ち組人生を歩んできた76歳主婦に湧き上がる「言いようのない感情」
美智子さん(仮名・76歳)の手元に、妹から年賀状が届いたのは、年が明けて間もない頃でした。写真には、妹夫婦と息子3人の家族、そして孫が6人。全員が揃って笑っている様子が写っていました。
「今年も賑やかなお正月になりそうです」――そんな一言が添えられていましたが、美智子さんは、その言葉を素直に受け止められませんでした。
美智子さんの人生は「勝ち組」と言えるものでした。夫は大手企業に長く勤め、現在は夫婦で年金を月に合計30万円ほど受給しています。退職金や相続もあり、金融資産は約6,000万円。老後の生活に困る心配はありません。
住まいは都内の戸建て住宅で、夫の両親の代から二世帯で暮らしてきた部屋数の多い家です。私立の中高一貫校から大学へ進んだ一人息子(48歳)は、都心でひとり暮らしをしながら働いています。
一方、妹は、美智子さんが育った神奈川県郊外の町で暮らしています。高校の同級生と結婚し、義弟は地元の会社に勤めていました。息子3人は高校まで公立、地元の私立大学や高卒で就職しました。
お金も、地位も、学歴も——すべて、自分のほうが上のはず。それなのに、妹の年賀状を見たとき、美智子さんの胸には、言いようのない感情が湧き上がりました。それは、「妬み」に近い感情でした。
夫の定期検診が突きつけた「目を反らしてきた現実」
そんな感情を抱いた理由に気づいたのは、夫の定期検診がきっかけでした。
「念のため、再検査をしましょう」
医師の言葉に、夫は「大したことないだろう」と笑っていましたが、美智子さんの胸には、これまで意識せずに済んでいた考えが浮かびます。
——もし、夫が先にいなくなったら。
——この広い家は、どうなるのだろう。
——自分が亡くなったあと、息子はどうするのか。
ちょうどその頃、実家の墓じまいをすることになり、久しぶりに妹と電話で話す機会がありました。「うちは長男が、墓は自分が継ぐって言ってくれてるの」。妹の声は、明るく、迷いがありませんでした。
美智子さんは、何も言えませんでした。自分は広い家に夫婦二人だけ。部屋は空いたまま、庭の手入れも負担になりつつあります。息子は夫が購入した都心のマンションに住み、実家に戻る気配はありません。
息子は結婚の予定もなく、将来も一人かもしれない。だからこそ、墓を守る責任を押しつけたくない。そう考えて、話題にすることを避けてきたのです。
お金では負けていない。それなのに、なぜか心がざわつく……妹の家には、「続いていく」何かがある。でも、自分の家には——。そのとき美智子さんは改めて痛感させられました。お金があっても、埋められない不安があるのだ、と。
