資産はあっても、決断の行き先が見えない…未婚化が進む日本で、親世代に広がる静かな課題
美智子さんが感じた不安——それは、お金では解決できないものでした。
老後資金は十分にあります。最終的な相続人は一人息子だけで、「争族」の心配もありません。数字だけを見れば、理想的な状況です。それでも、問題は残ります。
息子はすでに都心のマンションで生活が完結しており、実家に戻る必然性はありません。夫の両親の代から守ってきた広い家は、今後、誰も住まないまま残る可能性があります。売るのか、残すのか、手放すのか——その判断を、誰が、いつするのかは決まっていません。
墓についても同様です。妹の家では「継ぐ人」が決まっていますが、美智子さんの家では、その話題はタブーでした。結婚の予定もなく、将来も一人かもしれない息子に、墓を守る責任を押しつけたくない。そう考えて、話題にすることを避けてきました。しかし、避けてきた話題は、消えたわけではありません。
こうした状況は、美智子さんの家だけのものではありません。2020年(令和2年)の国勢調査によると、50歳時点で一度も結婚したことのない人の割合(生涯未婚率)は、男性で28.25%、女性で17.81%に達しています。50歳の男性の約4人に1人が、結婚経験がない計算です。
未婚の子を持つ家庭で、子どもは自立しており、親も元気で、資産もある。そんな場合、「まだ考えなくていい」と、むしろ判断を先送りしやすいのです。
けれども、「まだ考えなくていい」と先送りした結果、何をどう整理すればいいのか、その道筋が見えないまま時間だけが過ぎていく——それこそが、見えにくい老後のリスクなのです。
正解はなくても、選択肢はある…未婚の子がいる世帯が今からできる現実的な整理
未婚の子を持つ親世代に、万能な解決策はありません。ただし、「何も決めない」ままにしておくことが、結果的に子どもに重い判断を背負わせる場合があります。
まず考えたいのは、「家を継がせる」という前提を一度外してみることです。誰も住まない家を残さないために、売却や管理の限界を含め、出口を想定しておく。それだけでも、将来の選択肢は整理されます。
次に大切なのは、「息子にすべてを任せきりにしない」ことです。「自由にしていい」という言葉は、時に優しさではなく、判断の丸投げになります。結論を押しつける必要はありませんが、親としての考えを伝えておくことには意味があります。
墓についても同じです。継いでもらうかどうか、負担を減らす方法はないか。「自分の代で区切る」という選択も、時代に合った前向きな判断といえるでしょう。
こうした考えをどう伝えるか。必ずしも最初から法的な書類を整える必要はありません。たとえば、エンディングノートに「どう考えていたのか」「どこまで整理してほしいのか」といった気持ちを書き残しておくだけでも、子どもが迷わずに済むことがあります。
形式よりも大切なのは、親の考えが伝わることです。妹の家には、孫がいて、墓を継ぐ人がいて、「続いていく」という安心感がありました。でも、美智子さんの家には、それがない。だからこそ、今、自分たちで整理しておく必要がある——そう気づいたのです。
今すぐ答えを出す必要はありません。ただ、考え始められるのは、元気な今しかありません。あなたの家では、「その先」の話をしたことがあるでしょうか。それは、子どものためだけでなく、あなた自身の安心のためでもあるのです。
三原 由紀
プレ定年専門FP®
