「子のない夫婦」の遺産は誰のもの?
死亡した人に配偶者と子どもがいる場合、法定相続人は「配偶者」と「子ども」であり、父母には相続権がありません。しかし、子どもがいない場合には、直系尊属(父母・祖父母)や兄弟姉妹が、配偶者とともに法定相続人となります。
子がいない人の財産の相続順位と法定相続割合は次のとおりです。
第1位……配偶者+死亡した人の直系尊属(父母・祖父母のうち近い世代)
相続割合:配偶者3分の2、直系尊属3分の1
第2位……配偶者+死亡した人の兄弟姉妹
相続割合:配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1(兄弟姉妹がすでに死亡している場合は、その子どもが代襲相続となる)
つまり、子のいないカズキさんの遺産は、母親にも3分の1の相続権があるのです。マンション購入時に預金のほとんどを頭金として使ってしまったため、遺産と呼べるものはミナコさんがいま住んでいるマンションだけでした。
そのため、このマンションは「遺産分割協議」の対象となり、ミナコさんの判断だけで名義を変更することはできない――その事実を、義母からの電話でミナコさんは初めて知ったのです。
嫁姑が迎えた意外な結末
子のいない夫婦のうち、将来の相続に備えて早くから準備をしている人はあまり多くない印象です。特に現役世代では「年齢順なら親の相続が先」と考え、自分の相続対策はつい後回しにする人も多いでしょう。
とはいえ、たとえ若くても病気や不慮の事故、事件に巻き込まれる可能性はゼロではありません。考えたくはありませんが、最悪のケースを想定して準備しておきたいのが「遺言書」です。遺留分を除き、遺言書の内容は法定相続分より優先されます。
また、死亡保険金の受取人を配偶者にしておくことも有効でしょう。仮に他の親族が法定相続分を主張した場合でも、死亡保険金は相続財産に含まれず受取人固有の財産となるため、代償金として活用することができます。
義母の本音
「あの」
溢れそうになる涙をぐっと我慢して、ミナコさんは言いました。
「この家は、カズキさんとの思い出がいっぱい詰まった場所です。お渡しすることはできません。どうしてもというのであれば、現金でならお渡しすることはできると思いますが……」
マイホームを譲る代わりに、夫の死亡保険金と自分名義の預金から支払おうと、ミナコさんは腹をくくりました。
ミナコさんのこの発言を受けた義母は、予想外だったのか拍子抜けした様子です。
その後、話し合いを重ねるうちに義母の“本音”が見えてきました。義母は約5年前に夫を亡くし、今回さらに息子を失ったことで、気持ちの整理がついていなかったようでした。
そしてある日、義母はミナコさんに謝罪したそうです。
「お金が欲しかったわけじゃないの。私にはお父さんが遺してくれた家もあるし、年金で十分暮らしていけるわ。変なこと言ってごめんなさい」
結局、義母は相続を放棄することを選択。結果としてミナコさんはこれまでどおりマンションに住み続けられることになりました。
相続は複雑で、個々の事情によって判断が大きく変わります。自分のケースではどうなのか心配な場合は、専門家に相談することも検討してみましょう。
山﨑 裕佳子
FP事務所MIRAI
代表
