今回は、その”冷静さ”が身を守ったという、ちょっとスリリングなエピソードです。
◆バイト終わりに遭遇した”イヤ”な予感
話を聞いたのは、舞台俳優を目指しながら居酒屋でアルバイトをする横川さん(仮名・27歳)です。
自転車を取りに駐輪場へ向かったとき、ふと三体の影が横川さんの視界に入ったといいます。最初は”自分と同じように終電を逃した高校生”程度に思ったそうですが、近づくにつれてその気配が普通ではないと分かったといいます。彼らは柵に腰をかけ、こちらを真っ直ぐに見ていたそうです。
「歩きながら、直感ですよね。“これはちょっと面倒な相手だな”と分かりました」
三人のうち一人が前に出て、いきなり言葉を投げつけてきました。
「なあ兄ちゃん、財布、ちょっと見せてよ。困ってんだわ」
声は低く抑えられていたものの、こちらの反応を威圧しようとする意図が明確でした。相手を刺激すれば一気に面倒になる、そんな空気が漂っていたといいます。
◆”落ち着け自分”と言い聞かせる

「そいつらを無視するように自転車を押しながら、一定のスピードで歩き出しました。逃げているように見えない程度に、でも確実に距離をとるように。とにかく”落ち着け自分”と何度も自分に言い聞かせましたね」
当然、三人は黙っていませんでした。
「おい、無視かよ」「逃げんじゃねぇよ」
声は荒くなるものの、距離は少しずつ開いていきます。横川さんは決して振り返らず、視線を前に固定して歩きました。背後の気配は近く、息づかいさえ聞こえてきたといいます。
向かったのは、ロータリー中央にある新設の防犯カメラの下でした。数ヶ月前に駅の防犯体制が強化され、夜間でも顔がはっきり映る高解像度の防犯カメラが設置されたことを横川さんは覚えていたのです。
駐輪場からロータリーまでは50メートルほど。しかし追われている状況では、その距離が異様に長く感じられたといいます。

