◆勇気を振り絞りカメラを指差し
カメラの真下までたどり着いたとき、横川さんは決心して足を止め、上を指さしました。その動きに、後方の少年たちはわずかに戸惑ったようでした。
「あれ、全部録画されてますよ。僕からお金を取ったら、すぐ映像が使われます」
けれど一番伝えたいのは、直接的な脅しではなく「まだ引き返せる」というラインでした。そのため、少し間を置いて言葉を足しました。
「今なら、まだ未遂ですよ」
この“未遂”という単語が、少年たちに想像以上の効果を与えたようでした。 彼らは顔を見合わせ、カメラを見上げ、明らかに態度が変わったといいます。
「え、写ってんじゃね?」「やばいだろ、普通に」
先ほどまでの強気が、一瞬でしぼんだのが分かったそうです。相手が一気に冷めていく気配を感じ、横川さんもようやく胸の奥に少しだけ余裕が戻ったといいます。
◆作戦は成功するも、足はガクガク
短い沈黙ののち、リーダー格と思われる少年が焦った声で言いました。「行くぞ、早く!」
三人はほとんど反射的に駐輪スペースへ走っていきました。誰かがエンジンをかける音が響き、原付が一台、そしてもう一台と勢いよく飛び出していきました。やがてロータリーの外に消え、音も聞こえなくなりました。
「作戦は成功したのですが、しばらくその場から動けなかったですね。足がガクガク震えてましたから」
そう語る横川さんは、安堵と緊張の余韻が入り混じった表情でした。あの瞬間、冷静でいられたことは偶然ではなく、状況を細かく観察し続けていたからこそだったのかもしれません。
「結果として彼らは一目散に逃げて行きましたが、場合によっては自分の行動が相手を刺激して危害を加えられていたかもしれません。みなさん、くれぐれも夜道は気をつけてくださいね」
<TEXT/八木正規>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営

