「家賃補助がなくなると、もう住めない…」大手製薬会社・退職金3000万円の60代バツイチ男性が、定年後に東京を捨てて〈年金10万円の母〉が暮らす岡山の実家へUターン移住した切実な事情

「家賃補助がなくなると、もう住めない…」大手製薬会社・退職金3000万円の60代バツイチ男性が、定年後に東京を捨てて〈年金10万円の母〉が暮らす岡山の実家へUターン移住した切実な事情

「持ち家か、賃貸か」 この論争も、60代の退職後という視点でデータを見ると、「満足度の差」が現れてきます。60代6000人を対象とした調査によると、生活全般に満足している人の8割以上が「持ち家」でした。その背景にあるのは、単に家賃がかからないという点だけではありません。地方への移住や住み替えを選択した際、自宅が「資産」として機能し、老後資金にゆとりを生み出す選択肢を持てるかどうかが、心の余裕に繋がることも。本記事では、野尻哲史氏の著書『100歳まで残す 資産「使い切り」実践法』(日本経済新聞出版)より、定年後に地方へ移住した3人の事例から、持家賃を払い続ける賃貸派にはない、持ち家派ならではの「出口戦略」について解説します。

60代都市生活者の7割が「持ち家派」

現役時代に家を賃貸にすべきか、購入しておくべきか、という比較論に、60代の2つの目線、「持ち家と生活全般の満足度は関連するか」と「地方都市移住で発揮する持ち家の効果」で答えを考えてみたいと思います。

「60代6000人の声」アンケート(2025年)で、4回目にして初めて居住状況を聞いています。その結果、なんと74.2%の人が持ち家でした。しかも回答者6461人はすべて人口30万人以上の都道府県庁所在都市に住んでいる人ですから、思った以上に持ち家比率が高いといってもいいでしょう。

出所:合同会社フィンウェル研究所「60代6000人の声」(2025年) [図表1]現在の居住状況 出所:合同会社フィンウェル研究所「60代6000人の声」(2025年)

賃貸派より、持ち家派の満足度の方が高い

持ち家か賃貸かは生活全般の満足度に大きく影響していることもわかりました。生活全般に満足できると回答した656人のうち83.1%が持ち家だったのに対し、満足できないと回答した654人のうち持ち家比率は55.4%にとどまっています。

出所:合同会社フィンウェル研究所「60代6000人の声」(2025年) [図表2]現在の居住状況と生活全般の満足度(単位:人) 出所:合同会社フィンウェル研究所「60代6000人の声」(2025年)

また現在住んでいる都市の良いところを挙げてもらう設問で、賃貸派は「家賃・住居費が安い」ことを挙げる比率が非常に高くなっていて、持ち家派は「家賃・住居費の安さ」を挙げる人が少ないという点です。これは持ち家派が家賃の心配を相対的にしないで済んでいるのに対して、賃貸派は家賃の安さが住むところの魅力になっていることを示しています。

出所:合同会社フィンウェル研究所「60代6000人の声」(2025年) [図表3]現在の居住状況と現在居住している都市の良い点(単位:人) 出所:合同会社フィンウェル研究所「60代6000人の声」(2025年)

退職を機に地方都市へ移住した60代

次はちょっと定性的な目線です。退職を機に地方都市に移住した60代の方30人にインタビューを行っていますが、そのなかから住宅にまつわるエピソードを3つ紹介したいと思います。

定年後にUターン移住…実家の母と年金計23万円で暮らすバツイチ男性

定年を機に倉敷に移住されたKさんは、大手製薬会社で営業職を続けてきました。奥様とはかなり前に離婚し、退職を機に一人暮らしの母との同居を始めました。

現役時代は、単身で転勤も多く家を買う気は全くなかったようです。家賃補助などが手厚いため、何となく良いマンションでの賃貸生活を続けていました。しかし、定年になると家賃負担が一気に重く感じるようになり、実家に戻る決心をします。

現役時代、ずっと賃貸で過ごすとしても、退職後は賃貸から脱したいとの気持ちがどこかにあるものです。それはKさんのように現役時代に手厚い住宅補助があればあるほど、定年後の住宅コストの負担ギャップを大きく感じるからでしょう。

築年数が古くてもKさんのように実家があれば、その対応は可能になります。また現役時代に賃貸生活で過ごしたとしてもその間に資産形成を進めることで、定年時に“終の棲家”を購入することも可能になります。

ただKさんは現在、完全な無職。退職金3000万円は手付かずに残っており、自身の厚生年金13万円程度と母親の遺族年金10万円で「普段の生活に特に不自由はない」とのことです。

とはいえ実家は築年数の経過で近い将来の住宅のリフォーム費用が懸念され、また母親の介護が必要になったときにどうなるのか、自分が1人になったときにどういった生活になるのかは気になっている様子でした。

値下がり続くマンションを「半値」で売却→幼少期を過ごした岡山に移住した独身男性

一方で、現役時代にマンションを購入して、それをうまく活用して退職後の移住生活を乗り切っている人もいます。

68歳(2022年2月当時)、独身のTさんは、神戸で生まれて、子どもの頃岡山に引っ越しました。

大学受験に失敗し、それから10年ほどはアルバイト三昧の生活でしたが、1982年、28歳のときに入社した全国チェーンの小売り会社に腰を落ち着け、結局65歳まで勤めることになります。その会社ではフランス駐在も含め、営業で全国を巡る日々を続け、60歳の定年後も、嘱託社員として働き、65歳で退職し、岡山に移住しました。

現役時代、Tさんは藤沢にマンションを持っていました。1994年に4850万円で購入した70m2のマンションは値下がりし続け、岡山引っ越し時の売却価格は2650万円と半額程度でした。しかし岡山の80m2強のマンションは2390万円で購入。半値になった藤沢のマンションの売却額で、少し大きなマンションを購入することができたわけです。

定年後に物価の安い地方都市に移住することを想定すると、大都市のマンション価格下落も、安い物件に買い替えるとすれば、決して心配ばかりではないように思います。総合的なライフプランこそが重要な視点になります。

「売りやすい物件」を選び1000万円のゆとり…妻の地元に戻った子のいない夫婦

次はさらに計画的にマンションを購入したAさんのインタビューを紹介します。

新型コロナウイルスが蔓延する直前に、長崎に移住されたAさんも典型的な“転勤族”です。Aさんは62歳、奥様は60歳(2021年6月当時)で、それぞれ島原市と長崎市の生まれで、Uターンです。

Aさんはお子さんがいらっしゃいません。それもあって定年後は30年くらい前から漠然とUターンを考えていたそうです。それが具体的な行動になったのは50代後半、奥様の実家に帰省された折でした。

45歳まで社宅に住んだ後、住宅ローンを組んで東京の千歳船橋に、「売りやすい物件」を重視してマンションを購入。その後、お父様の遺産も使って50歳くらいには住宅ローンを完済したことで、売却して長崎のマンションに買い替えても、差額が1000万円以上残ったそうです。現役時代に積み上げた資産に、このホーム・エクイティが上乗せされ、ゆとりが生まれます。

そのまま住み続けている場合には、具現化しなかったホーム・エクイティの力が地方都市移住によって発揮された好事例です。

地方都市移住は、退職後の生活費削減による資産寿命の延伸対策のひとつではありますが、Aさんのように住宅の持つホーム・エクイティを活用することも大きなメリットになります。

野尻 哲史

合同会社フィンウェル研究所

代表

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