◆「カッコいいけど見つけづらい」より「多少ダサくてもすぐ見つかる」方がベター
ところで、XなどのSNSでは時おり、安全ボタン・非常装置と最新建築デザインのミスマッチが話題となる。モダンでスタイリッシュな空間設計を優先するあまり、安全ボタンなどの位置が壁に溶け込んでしまい、非常時にうまく探せないのでは?と指摘されるケースが少なくない。これについて、福田氏に見解を聞いてみた。「できるだけ避けていただきたいですね。非常ボタンなど見た目は野暮ったいし、どうしても最新のデザインからは浮いてしまうんですけど、逆にその『周りから浮いている』ことこそが視認性向上にもつながっていますので。デザインよりも非常時のアクセスしやすさを優先してほしい気持ちはあります」
こうした非常装置とデザインの関わりは、その建物や設備を主に誰が使うかでも大きく変わってくるという。例えば美容室やクリニックなど、常に数人〜十数人のスタッフが限られた空間内に滞在している施設であれば、スタッフ側が研修などで安全ボタンなどの位置を把握していれば良いので、非常装置周りのデザインに若干の融通は効くだろう。反対に、大型商業施設のように広大な空間を一般客が主に利用するケースは、非常装置の周りに一般人しかいないことも想定して目立ちやすいデザインにすべきだ。
「テナントビルのオーナーなど、これから安全ボタンや非常装置を建物に設置していく立場の人は、こうした建物用途や希望デザインについて、設計事務所や施工会社などとよくコミュニケーションしてほしいですね。一般的な良識ある会社であればクライアントに対して、あえて安全面を踏み倒すような提案はしないはず。逆に、デザイン偏重でリスク無視の提案をする相手には、警戒が必要です」
火災や事故は単独の原因によるものではなく、複数の細かな偶然や瑕疵が積み重なった帰結として発生してしまうものだ。その一端は建物の利用者だけでなく建物そのもの、そして建物を作った会社やオーナーにもあるのである。
◆2024能登地震で見えた「建物+地域」の安全作りへの教訓

「私は石川県内のライオンズクラブ(社会奉仕活動を行う民間団体)に所属しており、当時はコーディネーターを担当していました。地震後の1月2日には災害対策本部を立ち上げて活動を始めましたが、もう非常ボタンも安全装置も全く役に立たないほどの有り様で……」
マグニチュード7.6の大地震は輪島市などで震度7、金沢市内でも震度5強を記録し、その揺れは1〜2分に渡って続いた(福田氏談)。火災警報器や非常ボタンに対して、地震に対する警報器は設置していない建物や家屋も多く、能登地域では特に設置例が少ないという。加えて、火災警報器が発報しても、建物自体が倒壊してしまっては逃げ出すことすらできない。一般的な建物内設備で対応できる範囲を、はるかに超える地震だったのだ。
「取引先の会社も、3階建ての本社ビルが基礎から根こそぎ倒れて、横にあった居酒屋を押し潰してしまったんです。そこで2人が亡くなられましたし、私の知り合いや友人にも何人か亡くなった人がいます」
能登半島地震では地震以外に津波の被害も深刻だったほか、2024年9月には豪雨による水害も発生した。福田氏はその後も七尾市・和倉温泉の復興など、能登地域での様々なボランティアや支援活動に携わっている。
「長い時間がかかっていますけども、これからが復興に向けた勝負かな、と感じています。まだ5年から10年は必要でしょうね。今後の防災に向けては、例えば非常時の町内スピーカーを増やしたりラジオを有効活用するなど、年齢や住居を問わず全ての人がすぐに災害警報を認識できる環境が必要です。非常ボタンなどによる建物単位の防災と、地域単位での防災が上手に組み合わさった、安全で新しい街を創っていきたいですね」
地震にせよ火災にせよ、私たちはいつ、どこで非常ボタンや安全装置の助けを借りることになるか分からない。建物や地域を訪れる側も、作る側も、今後いっそうの安全意識強化が欠かせないのだ。
<取材・文/デヤブロウ>
【デヤブロウ】
東京都在住。2024年にフリーランスとして独立し、ライター業およびイラスト業で活動中。ライターとしては「Yahoo!ニュース」「macaroni」「All Aboutニュース」などの媒体で、東京都内の飲食店・美術館・博物館・イベント・ほか見所の紹介記事を執筆。プライベートでも都内歩きが趣味で、とりわけ週2〜3回の銭湯&サウナ通いが心のオアシス。好きなエリアは浅草〜上野近辺、池袋周辺、中野〜高円寺辺りなど。X(旧Twitter):@Dejavu_Raw

