
資産4,000万円と不動産収入があり、経済的に潤沢なはずの重圧さん(仮名・69歳)。しかし、定年後は家庭内に居場所がなく、妻から邪魔者扱いされる日々に悩んでいました。ある日、時給1,400円のマンション管理人として働き始めたことで、責任の軽さと健康、そして他者からの感謝という「お金では買えない価値」を手にします。自分の居場所を求めて、再び現場に立つシニアの事例を紹介します。
お金があっても、家に居場所がない
「定年後に、ようやく手に入れた自由を満喫しようと思っていたんです。でも、半年も経つと妻から『あなた、そこに座ってると掃除機がかけられない。図書館にでも行ってきて』なんていわれるようになりまして」
重圧ラク夫さん(仮名・69歳)は苦笑いしながら、そう語りました。重圧さんは大手商社で長年役職を務め、退職金と現役時代の蓄えを合わせた資産は約4,000万円にのぼります。さらに都内にアパートを1棟所有しており、月20万円ほどの賃料収入があります。
株式の配当金も合わせれば、経済的に働く必要はまったくありません。しかし、重圧さんは週に3回、自宅から少し離れた場所でマンション管理人のアルバイトをしています。時給は1,400円。
かつての年収を考えれば、ほんのわずかな金額です。しかし、重圧さんがこの仕事を選んだのは、ネットの悩み相談で見かけるような、定年後男性特有の「居場所のなさ」を痛感したことがきっかけでした。
時給1,400円でも心地よい労働環境
「現役時代は分刻みのスケジュールで動いていましたから、何もしない時間がこれほど苦痛だとは思いませんでした。家に自分の居場所がない。妻との関係もギスギスしてきて、このままでは本当にまずいという焦りがあったんです」
当初は「もし、かつての部下にアルバイトをしている姿を見られたらどうしよう……」というプライドが邪魔をしていました。しかし、実際に管理人の仕事を始めてみると、意外な発見があったといいます。
「かつては数千万円単位の予算を動かし、プロジェクトの成否に胃を痛める毎日でした。でも今は、共用部分の電球を替えたり、住人の方と挨拶を交わしたりするだけ。『いつも綺麗にしてくれてありがとう』と声をかけられるだけで、商談を成立させたときとは違う喜びを感じます」
仕事の責任がこれほどまでに軽いと「心地がよい」ということに、一番驚いたそうです。さらに、この仕事は健康面でも大きなメリットをもたらしました。
「家でテレビを観ているだけなら一日数百歩ですが、管理人の仕事をすれば1万歩近く歩きます。自由度が高い今の働き方は、私にとって最高の健康法であり、適度な社会参加なんです。1,400円の時給は小遣い稼ぎというより、外へ出るためのきっかけにすぎません」
重圧さんにとって、現在のアルバイトは生活費のためではなく、心身の健康と家庭内での円満な距離感を保つための、ライフスタイルの一部となっているようです。
