今回、話を聞いたのは、関東圏の中堅鉄鋼メーカーでエンジニアとして働く長田智和さん(42歳・男性)。堅実第一、慎重第一。ミスが許されない製造現場で起きたのは、新人によるまさかのトラブルだった。
◆数年ぶりの新入社員で期待も大きかった

「物静かで、いかにも理系タイプ。第一印象はむしろ“できそうな子”でした」
そう振り返る長田さん。新入社員は安全講習や座学研修を経てから現場に配属される。巨大な設備が並ぶ工場では、わずかな判断ミスが事故や損失に直結するからだ。
現場は慢性的な人手不足が続いていた。ここ数年は中途採用でしのいできたものの、新卒の技術職が配属されるのは実に数年ぶり。若手そのものが貴重な存在となっていたこともあり、部署一同で新入社員のAを迎え入れたという。
「Aは電話も率先して取るし、専門用語もその場でどんどん質問してくるので、“最近の若い子にしては頼もしいな”と感じました。こちらが説明したこともきちんとメモを取っていましたし、受け答えもハッキリしていた。だからこそ、早く現場に慣れて戦力になってくれそうだと部署全体で期待していたんです」
長田さんの部署の主な業務は、圧延ラインの保守点検や突発的なトラブル対応。わずかな異音や振動の変化を見逃さないことが求められる。新人は必ず先輩社員とペアを組み、重要な判断は一人でくださないというのが鉄則だった。
「少しでも迷ったら必ず誰かに相談してくれ。判断は必ずチームでやってほしいと入社初日に伝えました。Aもそのときはうなずいていました」
◆機械トラブルでまさかの事態に
トラブルの発端は、ほんの些細な違和感だったという。「最初に異音を報告してきたのは、Aではなく別の作業員でした。うちの主力設備である“熱間圧延ライン”……真っ赤に熱した鉄を巨大なローラーで引き延ばしていく機械なんですが、その駆動部分からかすかな金属音がする、と。でも、すぐにラインを止めるほどの異常ではありませんでした。長年やっていると、“様子見でいい音”と“今すぐ止める音”の違いは、なんとなく分かるものなんです」
報告を受けた長田さんは、午後に計画停止のタイミングで点検する段取りを組んだという。
「だから“午後に一緒に確認しよう”とチーム全体に伝えたんです。圧延ラインは一度止めると再立ち上げにも時間がかかります。その場で慌てて止める状況ではないと判断しました。もちろん、Aにも共有していましたし、現場も特に緊張感がある雰囲気ではありませんでした」
だが翌朝、状況は一変する。
「工場の心臓部ともいえる圧延ラインが、突然ストップしたんです。ビーッ!ビーッ!と警報音が鳴って、大きなモーターが止まりました。一瞬で現場の空気がピリつきました」
すぐに原因を探るため、機械のカバーを外して中を確認すると、すぐに違和感があったという。
「回転部分を支えている小さな部品の型番が違っていたんです。本来使うのは“高い熱でも壊れにくいタイプ”。でも入っていたのは、サイズは同じでも、そこまで熱に強くないものでした。素人目ではほとんどわかりません。でも、少し性能が足りないだけで、振動が出たり、傷みが早くなったりするんです」

