弁護士らが国を相手取り、保育園等の保育料を、所得税の事業所得等の計算において「必要経費」(所得税法37条1項)と認めるよう求めている訴訟の第4回口頭弁論が、24日、東京地裁で開かれた。
従来の課税実務では、保育料は事業と無関係な「家事費」(所得税法45条1項1号)とされ、必要経費への算入が否定されてきた。これに対し原告は、保育料は「子の親が就労時間を確保するための対価」であり、必要経費にあたると主張している。
今回の期日では、被告(国)側が予め準備書面を提出し、原告への反論を行った。その内容は、必要経費の判断枠組み、および、それを前提とした保育所の一般的性質についてである。
被告国側は必要経費の要件として「直接関連性」を強調
被告国側は必要経費の意義について「事業活動と直接の関連をもち、事業の遂行上必要な費用」をさすと主張し、あくまでも「直接関連性」を重視している。そして、保育料は事業活動との直接関連性が認められず、必要経費に該当しないとする。
これに対し原告は、前回期日において、必要経費の要件について、実際の裁判例(※)を分析した結果、「直接関連性」は必須ではなく、実質的には以下の3段階で総合的に判断していると説明した。
①支出した費用の一般的な性質
②当該業務の具体的な内容・性質等、支出の目的
③その支出が収入の維持や増加をさせる効果の有無および程度
※ロータリークラブ会費事件(長野地裁平成30年(2018年)9月7日)、柔道整復師資格費用事件(大阪地判令和元年(2019年)10月25日)、弁護士会費用事件(東京高裁平成24年(2012年)9月19日判決)など。いずれも上級審で維持され確定している。
その上で、上記の判断枠組みに照らせば、保育料は、保育所の利用目的が『親の就労のため』であることから、必要経費に該当するとした。
今回の期日では、被告側は、これまでの裁判例・実務で「事業活動と直接の関連を有し」との文言が用いられていることや、消費・家事費と明確に識別する必要があることなどを理由として、「直接関連性」が要求されるとの従前の主張を繰り返した。
原告代理人の戸田善恭(よしたか)弁護士は、期日後、弁護士JPニュース編集部の取材に応じ、被告側の主張について、「直接関連性」が法律の文言上要求されていないのに加え、その内容が不明確であり有効な規範となっていないと指摘した。
戸田弁護士:「そもそも、必要経費の意義について判例・学説が固まっているとはいえない。そこで、本件訴訟を通じて裁判所に統一的見解を出してほしいと企図している。
被告国側が強調する『直接関連性』という言葉は、たしかに多くの裁判例や課税実務で基準として示されている。しかし、法律に要件として書かれていないうえ、法的に突き詰めると内容が明らかでなく、数多くの裁判例を分析しても規範として機能していない。
結局『結論先にありき』となってしまっている。
これに対し、我々は『直接関連性』は不要だと主張し、より実質的で明確な判断基準(上述の①~③の3段階で判断する方法)を示している。
しかし今回も、被告側はあくまでも『直接関連性』を必須の要件として主張した。
互いの主張は出尽くし、平行線になっている状態だ。そこで今後、税法の専門家に意見書を作成してもらうことを予定している」
「取引先等との飲食代」は必要経費として認められるのに…
たしかに、法律の素人の感覚からしても、どこまでが必要経費に算入され、どこからがされないかの判断は分かりにくい面があることは否めない。
すぐ思いつくのが、業務上の取引先と親睦等のため会食した場合の飲食代について一定限度まで「接待交際費」として必要経費への算入が認められていることである。
その他にも、「経費で落とす」という言葉に象徴されるように、必要経費への算入は、事業活動との関連性について一定の説明ができれば比較的緩やかに認められる傾向がみてとれる。
原告代理人の江夏大樹弁護士は、その点について、国が主張する「事業活動との直接の関連性」という基準では合理的な説明をつけることが困難だと指摘する。
江夏弁護士:「弁護士も、クライアントと食事をしなくても仕事はできるが、子どもを保育所に預けなければ法廷に立てない。
それなのに、前者については必要経費性が認められ、後者については認められない。その理由について合理的な説明はきわめて困難だ。結局『事業活動との直接の関連性』は要件としての実質が乏しく、有効な基準として機能していないのが実情だ」
保育料の「今日的意義」
もう一つの大きな争点は、保育料の性質である。原告らは、保育所がかつての「子の養護・教育のための施設」から、「親の就労を支えるための施設」へと変遷してきており、今日では保育料は「親が働く時間を確保するための対価」であると主張する。
その根拠として、高度経済成長期を経て女性の社会進出が進んだこと、それに伴い、男女雇用機会均等法の施行(1986年)、児童福祉法の改正(1997年)等が行われ、政府の政策上も、保育所が「親の就労を支える施設」との位置づけが鮮明になったことなどを挙げた。
これに対し、被告国側は、「急速な少子化の進行や深刻な待機児童問題などの子育てをめぐる現状と背景に対する政府の政策として、親の就労支援の必要性の高まりへの対応という側面があったことは否定しない」としつつ、保育所があくまでも「子の養護・教育のための施設」であり、保育料は子の育児のために負担する支出であると主張する。
戸田弁護士は、被告側の主張は1947年の児童福祉法制定時の議論に基づくものであり、今日では通用しないと指摘する。
すなわち、旧制度では、保育所を児童の「養護と教育」の施設ととらえ、行政が「保育に欠ける児童」を見出して保育所の利用「措置」を執るという制度設計がなされていた。
しかし、今日では児童福祉法から「措置」の文言が削除され、市町村の「保育実施義務」が明記されている。また、「保育に欠ける」という文言は「保育を必要とする」に改められている。これにより、「親の就労のため保育を必要とする児童」については、所定の要件をみたせば自治体が保育義務を負うことが明確になっている。
戸田弁護士:「今日では、子どもを保育所に預ける親の実態としても、法制度上の位置づけとしても、保育所は『親が就労するための施設であること』は明らかだ。これを否定する被告国側の主張を維持することは、困難になっているといわざるを得ない。
次回以降、社会保障制度や保育政策の専門家に意見書を書いてもらい、提出することを予定している」
次回、第5回口頭弁論期日は4月23日15時から東京地裁で開かれる予定である。

