
親の介護は、ある日突然始まります。「限られた予算と時間」という追い詰められた状況下で、低価格な施設は有力な選択肢となります。しかし、費用を抑えることだけを優先した即決が、親の健康や尊厳を損なう結果を招くことも……。本記事では、社会保険労務士法人エニシアFP共同代表の三藤桂子氏がAさんの事例とともに、安い老人ホームの落とし穴を解説します。※事例は、プライバシーのため一部脚色して記事化したものです。
現場一筋だった父を襲った脳梗塞、そして「苦渋の選択」
50歳のAさんは、パート勤めの妻と高校生の双子の娘を抱える4人家族です。大学卒業後は、中小企業の製造業で働いてきました。
Aさんの実家は、大工として自営業を営んでいました。Aさんが大学まで行けたのは、「これからの時代は大学まで卒業しないと希望する職業に就けない」という父の思いがあったからです。Aさんも自分の子には大学を卒業させたいと強く思っていました。しかし、双子の教育費を工面するために妻と協力していますが、2人同時期の進学に教育費を工面するのは至難の業。そんな折、Aさんの父が脳梗塞で緊急入院したのです。
手術は成功しましたが、体半分に麻痺が残り、リハビリに通います。父は体を使う職業だったこともあり、体力には自信がありました。幸いにもリハビリを経てからの回復は、多少の麻痺は残ったものの順調でした。しかしながら、Aさんの母はすでに他界しており、父は一人暮らし。家事の不安は拭えませんが、かといって、都内に父を呼び寄せる余裕もありません。
「人様の手を借りるしか……」と苦渋の選択で老人ホームを探しはじめました。
電話一本で即決した理由
お昼の休憩時間や帰宅後の寝る前にネットでいろいろ調べました。Aさんの父は要介護2。原則、要介護3以上であれば入居できる特別養護老人ホームは、要介護3でも順番待ちのようで、要介護2の父は特別養護老人ホームの入居は難しく、あきらめざるを得ない状況です。
「老人ホーム 低価格」で検索するといくつか施設が出てきました。そのなかで予算内に収まるところを候補にあげ、電話をかけると、「ちょうど1部屋だけ空きがある。すぐに埋まってしまうかもしれない」と告げられます。焦っていたAさんは、その場で入居を即決してしまいました。
なんとか賄えた“安い”老人ホームの費用
父の自宅を売って費用の足しにしようかと、不動産会社に見積りをお願いしましたが、現実は甘くありません。建物の老朽化ゆえ、解体して更地にしてから買い取るといわれました。解体費などの合計額は500万円。さらに、駅から離れた立地なので、1,000万円がいいところとのこと。正直、父があと何年生きるかわかりませんが、少しでも足しになるならと売却することに。差し引きすると、実家の売却で手元に残ったのはわずか500万円でした。
自営業だった父の年金は月約6万円。2024(令和6)年における80歳男性の平均余命は8.96年です。父は現在80歳。少しの蓄えと自宅を売った500万円、月6万円の年金――。平均余命で考えるのであれば、なんとか賄っていけそうでした。
