3ヵ月後の再会…父の変わり果てた姿
Aさんは仕事が繁忙期に差し掛かったこと、さらに父が入居した老人ホームは交通の便が悪いことから、入居後の面会が遅れてしまいました。3ヵ月後、やっと訪問することができたAさんは、父の変わりように驚きが隠せませんでした。
もともと父は、現役時代に現場での力仕事が多かったため、恰幅もよく食欲旺盛でした。現役を引退しても、それは変わらなかったのです。利き手と利き足が麻痺したあとも、食が細くなることはなかったはずです。それがどうでしょう。Aさんの目には、まるで別人のような父の姿が映っています。わずか3ヵ月。骨が浮き出て、脂肪が落ち、痩せこけています。驚きを隠せず事情を聞くと、父は話しはじめました。
出される食事は常に「刻み食」でした。本来は普通食を食べられる状態でも、スタッフに声をかけると「ちょっと待ってください」と放置され、そのまま食事時間が終わってしまう。やっとの思いで普通食を希望したところ、「ほかの入居者と違う対応には月々の別料金がかかる」と突き放されたといいます。せっかく息子が探してきてくれた施設だから、別料金がかかることは避けたいと、父は、そのまま刻み食で我慢していたそうです。
ショックを受けたAさんが職員に父が激痩せしたことを伝えると、返ってきたのは冗談めかした信じがたい言葉でした。
「少しくらい痩せたほうが、お世話もしやすいですよ」
なぜ激安なのか?「重要事項」に隠された真実
本来、有料⽼⼈ホームの設置者は、⼊居者等に対して、当該有料⽼⼈ホームにおいて供与される介護等の内容、その他の便宜の内容、費⽤負担の額、その他の入居契約に関する重要な事項を「書面」で開⽰する義務があります(⽼⼈福祉法第29条第7項、⽼⼈福祉法施⾏規則)。しかし、ネット上で表記されている「激安費用」には、ほかに追加費用が隠れているケースがあることを知っておきましょう。
老人ホームを探すときに費用を抑えたいと思うのはもちろんのことですが、安さには必ず理由があります。
・立地や建物の古さ
・スタッフ一人あたりの入居者数(質の低下)
・サービスごとの細かな追加課金
「安い=スタッフの目が行き届かない」という構造になっていないか、実際に見学して入居者に合った老人ホームを探しましょう。
さらに、80歳男性の平均余命は8.96年ですが、これはあくまで平均です。実際には90歳、95歳まで存命する可能性も十分にあります。家を売った500万円を約9年で取り崩す計算では、長生きすると資金ショートを起こします。介護資金は、「いつまで続くかわからない」という前提で、月々の赤字を最小限に抑える設計が鉄則です。
目先の月額利用料が安くても、今回のように「普通食への変更が別料金」であったり、医療費や消耗品代が上乗せされたりすることで、結局は高額になるケースが多々あります。また、劣悪な環境で健康を害せば、入院費用や転院費用といった一時的な大出費が発生する可能性も高いです。
実際に入居したあとは、大変かもしれませんが、本人が無理をしていないか、精神的なストレスを抱えていないかを把握するために、できる限り訪問して様子を見守ってあげてください。親を想う気持ちが、かえって親を苦しめる結果にならないよう、慎重な施設選びが求められています。
〈参考〉
厚生労働省:有料⽼⼈ホームの現状と課題について
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001592455.pdf
厚生労働省:主な年齢の平均余命
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life24/dl/life24-02.pdf
三藤 桂子
社会保険労務士法人エニシアFP
共同代表
