原因は、投資ではなく「家計設計」の失敗
Aさんのケースは、運用に失敗していたわけではありません。むしろ市場を読み、着実に資産を増やすことには成功していました。真の問題は、投資を始める前に整えるべき「家計の設計」が欠けていた点にあります。
原因1:目的別にお金をわけなかった
お金には「役割」があります。生活費、緊急時の備え、数年以内に使う予定の準備資金、そして老後や将来のための長期資金や余剰資金。これらはすべて性質が異なり、適切な持ち方も異なります。
投資に充てていいのは、長期資金もしくは余剰資金であるのがセオリーです。Aさんは、生活費の全体像がみえていなかったうえに、ほとんどすべての金融資産を投資に充てていました。本来であれば投資に充てるべきではない、子どもの教育費も投資に回してしまっていたのです。A家の場合、子どもの教育費は生活費もしくは準備資金にあたります。これらは、しっかりと予算を確保したうえで、元本割れのリスクがある投資ではなく、確実性の高い現預金でもっておくべきものです。値上がりを期待して準備資金まで投資に回した結果、必要なときに現金化できず、妻に負担が集中してしまいました。
原因2:家計の役割分担の偏り
Aさんは「資産を増やしている」という自負がありましたが、その「増えるまでの時間」を支えていたのは妻のBさんでした。家計はチームプレーです。どちらか一方が将来の夢に投資し、もう一方が現実の支払いに追われるという構図は、いずれ信頼関係を損ないます。投資額を増やす前に、それぞれの負担割合を定期的に見直し、夫婦で共有しておく必要がありました。
原因3:出口設計がない
投資を行うとき、投資額にばかり注目しがちですが、同様に重要なのは「いつ、どのようなタイミングで、どのように取り崩すか」という出口設計です。Aさんの出口設計はあいまいで、具体的な計画がありませんでした。離婚という予期せぬ出口を強いられたことで、複利の効果も運用計画も失ってしまったのです。
投資計画は「続けられること」を前提として設計すべきものです。入口(拠出)ばかりに気を取られ、出口(取り崩し)を考えていないと、最終的に大きな損失につながりかねません。
資産運用の前に整える「3つの設計」
資産運用により得られるメリットは家計にとって大きなものであるからこそ、投資の前に整えておくべき「3つの設計」があります。
1.守るお金を確保する
まず最初に確保すべきは、生活防衛資金です。これは、失業や病気など予期せぬ事態に備えるお金で、目安は生活費の3ヵ月分~1年分。この資金は投資に回すべきではありません。銀行の普通預金や定期預金など、すぐに引き出せる形で確保しておきます。今後の物価上昇を見込むと、物価上昇に耐えうる「バッファー資金」も用意しておくと安心です。
2.使う時期が決まっているお金を分離する
教育費や住宅の修繕費、車や家具家電の買い替え資金など、数年以内に使うことが決まっているお金は準備資金として、投資とわけて管理しましょう。たとえば、3年後に大学入学を控えているなら、受験費用や入学金、初年度の学費、新生活費用など、関連して必要な金額をあらかじめ確認しておきます。そのうえで、定期預金や個人向け国債などの安全資産で確保。この順序を守ることで、長期資産運用の継続を可能にします。
3.出口設計を先に決める
旅行でも目的地が決まらなければ交通手段は選べません。投資も同様で、目的が決まらないと、適切な運用方法が決まりません。老後資金として65歳から取り崩すのか、住宅の取得資金として10年後に一部現金化するのか、早期退職の資金とするのか……。投資を始める前に、具体的なシナリオを描いておくことで、具体的な運用方法も自然と見通すことができます。逆に、出口を考えずに「とにかく満額積み立てる」というやり方では、Aさんのように思わぬタイミングで現金化を迫られたとき、大きなリスクとなって返ってくることがあります。
