時代に合わせてショコラを微調整
──「定番ショコラも時代に合わせて少しずつレシピを変えている」と、かつて教えてくださったことがあります。
NC アイコンとなるショコラの味を守る。それが私の第一の使命です。ただし、時代に合わせた微調整は欠かせません。
たとえば「サルバドール」は、1977年当初はフランボワーズのリキュールで香りづけしていましたが、少しずつリキュールを減らし、ピューレへ置き換えていきました。常連のお客さまを驚かせないよう、変化はゆっくりと。砂糖や油脂の量も控えめに調整しています。気づかないうちに、味わいが時代に寄り添っている――それが理想です。

──サロンに、ラ・メゾン・デュ・ショコラの創始者、ロベール・ランクスさんのポートレートが掲げられています。ショコラを心から愛し、同時に仕事に厳しい方だったそうです。
NC ロベール・ランクスはよく「とてもおいしいもの以外はだめだ」と言っていました。「C’est pas mal(まあまあ)」は許されない。「Très bon(とてもおいしい)」でなければ意味がない。本当に厳しい姿勢でした。私はロベール・ランクスと10年間ともに仕事をしましたが、自分は彼によく似ていると思います。決して満足することがないのです。
たとえば、作り直す時間がもしあれば、私は迷わず少しでも良いものを作ろうとします。私の考えですが、クリエーションに「完璧」はありません。もし誰かが「これは完璧だ」と言ったら、私は少し疑ってしまいますね。それは、少し傲慢(ごうまん)かもしれません。
──ランクスさんから引き継いだ、メゾンのショコラの味の特徴は?
NC カカオにさまざまなアロマに素材を重ね、少しずつ味の変化が感じられる繊細なレシピを組み立てることです。ワインのように「おいしい」だけでなく、トップノート、ミドルノート、ラストノートがある。そんなデリケートなアロマの構成を、ショコラに映し出しています。
──どんなに時代が変わっても、メゾンが変えてはいけないものとは?
NC ココ・シャネルの「La mode se démode, le style jamais.(流行はすたれるが、スタイルは永遠に残る)」という言葉があり、ランバンの創業者、ジャンヌ・ランバンの哲学も同じでした。
ラ・メゾン・デュ・ショコラもスタイル、つまり「味」と「エレガンス」を変わることなく守り続けること。ランクスから受け継いだ「これがラ・メゾン・デュ・ショコラ」という味を守り、ファッションやトレンドを追うのでなく、パリらしいエレガンスとシックさとともに次世代へ継承する。それがあってこそ、どんな挑戦も成立します。
春の定番 日本の桜に想いを寄せて

──日本のために作ってくださった桜のコフレが、この春も登場しました。
NC 限定のボンボン・ドゥ・ショコラは、まず桜の花が香り、次第に緑茶の風味がガナッシュから広がる「テ フルール ドゥ スリズィエ」と、ピスタチオペーストのガナッシュをミルクチョコレートと楽しめる「ピスタッシュ」の2種です。ホワイトデーのギフトにしていただいても、素敵ですね。

──シェフは、桜の花を日本でご覧になったことはありますか?
NC ないんですよ。というのも、毎年、秋やバレンタインシーズンに来日、3月はフランスで仕事をする時期と重なってしまうので。フランスでは日本の桜の開花がテレビニュースになるほど有名です。映像で見ていますが、美しいですね。
──ぜひシェフに、日本の桜をご覧いただき、そのインスピレーションからショコラを創作していただきたいです。
NC そうですね。3月の終わり頃でしょうか。いつか桜の季節に日本を訪れたいです。
text: Ayumi Ichikawa
・日本で先駆けて進化する「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」 ニコラ・クロワゾーシェフ インタビュー(前編)
