◆「まさか自分が……」1日10時間のスマホ利用、1年で強度近視に

32歳で極度の近視となった斎藤亮さんは、そう、うなだれる。彼の眼が悪くなった原因は長時間に及ぶ“スマホの使用”だ。
「数年前に飲食業界に転職しエリアマネジャーを任されました。どこにいようと管轄店舗の従業員とチャットで連絡をとりあう必要があり、24時間スマホが手放せなくなりました」
使用時間は多いときで1日10時間。だが本人は、「ギリギリまで視力の低下に気がつかなかった」と振り返る。
「東京に住んでいると遠くを眺めることがほとんどなく、移動中もスマホを凝視していました。ある日、不意に手元の資料の文字に目を落としたときに『あれ? こんな見えなかったっけ?』と驚き、そこで始めてハッと顔をあげたら、周囲がひどくぼやけていたんです」
眼科での診断は衝撃的だった。転職から1年で、0.5はあったはずの視力が0.02以下へ急落、強度の近視となり近くのものですらぼやけて見えるレベルになっていたのだ。
「医師からは『スマホしか原因がない。このまま近視が進行すると視力が0となり完全に失明する可能性もある』とハッキリ告げられました。最悪の場合、朝起きたら目が見えない、ということもあるそうです。今でも、裸眼だと1m先に人がいるかどうかすら判別ができない。コンタクトをつけても小さな文字や遠くの景色は見えません」

◆強度近視・緑内障・白内障……あらゆる失明リスクが加算

「オーストラリアの視覚研究所の発表によると、スマホが原因で2050年には世界人口の約1割(約10億人)が強度近視となり、失明リスクにさらされるという統計結果も存在します」
と、語るのは『スマホ失明』の著者で眼科医の川本晃司氏だ。
「失明には大きく分けて、視力が0になる『医学的失明』、眼鏡をかけても視力表の最上段が判別できない『社会的失明』、両目では物が二重に見えて歩くことすらままならない『機能的失明』があります。これら3つとも、スマホの過剰使用で格段にリスクが高まると指摘されているのです」
だが、テレビやパソコンなど数あるデバイスの中で、なぜスマホだけがこれほどまでに危険視されるのか。
「長時間眼を酷使し続けてしまう、極端に近い距離で見る、瞬きも忘れるほど過集中になる、目が乾いて無意識にこすってしまう。これらが失明のリスクを高める要因であり、スマホの使用はこの4つが同時に重なるのが問題です」
暗い場所でも見えてしまうため、長時間の利用につながりやすいのもスマホが本や漫画と決定的に違う点だという。
「スマホを近距離で長時間見続けると、眼球の長さ(眼軸)が伸びていき、それが近視を引き起こします。一度伸びた眼軸を元に戻すことは不可能で、視力や機能は自然には回復しません。かつては、『近視は20歳で止まる』と言われてきましたが、最新の研究では何歳でも眼軸は伸び続けることがわかっています」
冒頭の斎藤さんのような極度の近視は、「社会的失明」と言える。それだけでなく、近視が進行すると合併症として緑内障をも発症しやすくなるという。
「またスマホの過剰使用に老眼という要素が加わると、白内障のリスクも加算。白内障・緑内障は完全に眼が見えなくなる『医学的失明』の可能性もはらんでいます」
仕事でスマホを使う機会が多い中年こそ、注意が必要なのだ。また近年では、10代を中心に急増しているのが急性内斜視だ。目が内側に寄って物が二重に見える状態で、重症化すれば手術が必要になるという。いわゆる機能的失明の状態だ。
「横向きに寝転んでスマホを見ると頭が傾いて視点の位置(=眼位)が左右でずれ、その状態で眼球が固定されてしまうんです。手術をしても完全には元に戻らないことも多い。学会では『大人はならない』と言われてきましたが、実際には40代の患者さんも来られます。まともに歩くことができず、高齢のお母様に手を取られてくる姿は、悲惨でした」
眼鏡やコンタクトがあれば大丈夫——。そう思っている人は多い。だが川本氏は、その認識は危険だと警鐘を鳴らす。
「一度悪くなった眼は、たとえ眼鏡などで補強しても、若く健康な時に見ていた視界とは明らかに質が異なり、QOLにも影響を及ぼします。試しに、目を閉じた状態で刺身を食べてみてください。きっと白身と赤身の区別すらつかないでしょう。失明がもたらすのは暗闇だけではないのです」

