日本プロ野球選手会(会長:近藤健介)は3月4日、2025年のクライマックスシリーズ(CS)および日本シリーズ期間中に実施したオンライン上の誹謗中傷モニタリングの結果を公表した。
英Signify Group社のAI誹謗中傷検出システム「Threat Matrix」を導入した本プロジェクトにより、CS進出全6球団の計79選手のアカウントに対し、466件の誹謗中傷投稿が確認されたという。
選手会によると、調査ではOSINT(公開情報分析)を用いて発信元アカウントの個人情報の特定にも成功したといい(特定件数は非公表)、今後は、加害者への試合観戦禁止処分や警察への通報を含む対応を検討する方針だ。
AIが約380万件の投稿とコメントを解析
今回の対策プロジェクトは、2025年10月8日から11月2日までの期間を対象に実施された。
モニタリングの範囲はX(旧Twitter)、Instagram、Facebook、TikTokの主要4プラットフォームに及び、選手名やSNS上で使われる愛称に加え、日本プロ野球に関連する誹謗中傷表現を事前にリストアップ。
選手本人のアカウントや球団公式アカウントへの投稿・コメントだけでなく、選手やその家族から選手会事務局へ直接申告のあったダイレクトメッセージ(DM)も調査対象に含まれた。
AIが分析した投稿とコメントの総数は約380万件にのぼる。このうち、誹謗中傷の疑いがあるとしてAIが検出した投稿は2917件。さらに専門アナリストが精査した結果、実際に誹謗中傷と認定された466件の投稿についてはすべて各プラットフォームへの通報が完了している。
誹謗中傷の発信元は197件
調査結果によると、この466件の投稿は197件の発信元から行われたものだという。
今回のプロジェクトで特に注目されるのが、OSINT(Open Source Intelligence=公開情報分析)による投稿者の個人特定だ。
「Threat Matrix」では、誹謗中傷投稿を行ったアカウントに対し、タイムスタンプや投稿場所から生活圏を推定するほか、他のSNSで同一ID・プロフィール・交友関係を照合するクロスプラットフォーム分析を実施。投稿内容や属性から性別・年代・職業などの個人情報を割り出し、タグ付けされた写真や交友関係から出身校まで特定するケースもあるとされる。
従来、日本国内でSNS上の誹謗中傷投稿者を特定するには、発信者情報開示請求を裁判所に申し立てる方法が一般的だった。選手会も2023年9月に弁護士による誹謗中傷対策チームを立ち上げ、開示命令の申立てや示談交渉を進めてきた経緯がある。
だが、今回OSINTを活用して個人情報の特定に至ったということは、従来の法的手段を補完する新たな抑止力となる可能性を秘めている。
最多は「人格攻撃・罵詈雑言」56.2%
選手会の報告によれば、誹謗中傷投稿の内訳で最も多かったのは「人格攻撃・罵詈雑言」で、全体の56.2%を占めた。次いで「全力プレーではないなどの揶揄・中傷」が17.8%、「人種差別」が8.1%、「暴力・脅迫」が7.4%と続く。
残りの10.5%は「その他」に分類され、性的侮辱表現や家族への言及、容姿の否定などが含まれるとしている。
なお、一般に「誹謗中傷」と呼ばれる行為は、刑法上の名誉毀損罪や侮辱罪に該当する可能性がある。
名誉毀損罪は、公然と事実を摘示し、その内容により社会的評価を低下させれば成立し得る。事実が真実かどうかに関係なく成立し得るのが特徴だ。
また、具体的事実を摘示せず、「無能」「最低」などの抽象的な悪口で人格を貶めた場合は、侮辱罪が問題になってくる。
加えて、たとえ投稿で相手の名前等を明示していかなったとしても、内容や文脈から対象が特定できれば、法的責任を問われる可能性があり、注意が必要だ。
一方で、公共性の高い問題について、目的がもっぱら公益を図ることにあり、摘示事実が真実であるか、真実と信じるにつき相当な理由がある場合は、違法とされない余地もある。
誹謗中傷と批判は、法律によって明確に区別されているわけではない。
相手の行動や意見について、誤りや悪い箇所を論理的に指摘して、改善を求めたり改善案を示したりするといった行為は正当な批判・論評の域にとどまっているが、他人の社会的・経済的な評価を下げるような表現を用いたり、激しい口調を使った場合には誹謗中傷にあたる場合もある。
特に、感情に任せた投稿が拡散されやすいSNSでは、相手の社会的評価を不当に傷つけていないかを一度立ち止まって考えることが重要だ。
観戦禁止処分も視野、選手会が示した「次の一手」
選手会は今後の対応として、NPBおよび各球団と連携し、誹謗中傷行為の加害者に対する試合観戦禁止処分を課すことを含め、検討を進めるとした。一定の基準を満たす投稿を行った加害者については、警察への通報を含めた措置も視野に入れているという。
近藤健介会長は「選手の安全と心身の健康は、グラウンド内外を問わず、私たち選手にとって最優先事項です。選手とその家族を守るため、誹謗中傷行為に対し、断固とした姿勢で臨んでまいります」とコメント。
「選手のみならず指導者やスタッフ、審判など球界全体で協力し取り組む必要がある」(近藤会長)との認識を示している。

