第百三十八話 啓蟄の花絵「桜草」

第百三十八話 啓蟄の花絵「桜草」


2026年3月5日から二十四節気は「啓蟄(けいちつ)」に

「啓」はひらく、「蟄」は土の中に身を潜めることを意味し、冬のあいだ地中で静かに息をひそめていた虫たちが、春の兆しにうながされて動き始めるころを表した節気です。

自然が少しずつ目覚めるように、春はゆっくりと準備を進めながら訪れます。
春は突然やって来るのではなく、見えない場所からその気配を整え、ひとは冬の記憶を薄め、春へと気持ちを向けていく──
万物に、確かな春が満ちはじめる季節です。

啓蟄の季節感

■ 桜前線
2026年の桜前線は、平年並みかやや早めと予想されています。
冬の気温が高めに推移した地域では休眠打破が順調に進み、その後の気温上昇が早いと、開花も前倒しになります。

指標となるソメイヨシノは、東京では3月下旬に開花の見込み。
九州・四国から関東にかけては3月下旬、東北は4月上旬〜中旬、北海道は4月下旬〜5月初旬とされています。

桜の開花は観光情報であると同時に、気温推移や都市部のヒートアイランド現象を映す“気候の指標”でもあります。
啓蟄の頃に発表される予想は、その年の春のリズムを読む手がかりとなります。

■ 春雷 ─ 虫出しの雷
啓蟄のころに鳴る雷は、「虫出しの雷」と呼ばれてきました。
もちろん、雷が虫を起こすわけではありませんが、気温や湿度が上がる時季と重なりやすく、こうした言い伝えが生まれたと考えられます。
自然の現象を物語として受け止める、日本らしい季節の感性が息づく言葉です。

古くから愛される春の花 ─ 桜草

□出回り時期:3月〜4月
□香り:微香
□学名:Primula sieboldii
□分類:サクラソウ科 サクラソウ属(プリムラ属)
□別名:日本桜草
□英名:Primrose
□原産地:シベリア東部~中国東北部、朝鮮半島、日本列島

サクラソウはプリムラ属の多年草です。日本では古くから在来種「サクラソウ(Primula sieboldii)」が自生し、江戸時代のころから改良した花も親しまれてきました。
淡い色合いと繊細な花形が特徴で、早春に咲く可憐な姿から、古くから人々に春を告げる花として親しまれています。

■ 名前の由来
花の形が桜に似ていることから、この名が付きました。
また、学名プリムラ、英名プリムローズは「最初のバラ」を意味し、寒い時季から花を咲かせることや、美しい姿になぞらえたものとされています。

■ 桜草の文化史
江戸時代、荒川流域に自生していた桜草をもとに品種改良が進み、朝顔や菊と並ぶ古典園芸として愛好されました。花弁の形や切れ込み、色のにじみなど、わずかな違いを見分けて楽しむ独特の美意識が育まれ、幕末には数百品種を集めた番付も作られたと伝えられています。

プリムラ属の花はヨーロッパでも春を告げる花として親しまれ、ギリシア神話では若者パラリソスの涙がプリムラになったという伝承が残されています。

■ 品種と系統
桜草はサクラソウ属(Primula)に属する植物の総称ですが、日本の在来種とヨーロッパ原産の園芸種では、成り立ちも改良の方向性も異なります。

・日本の在来種
日本のサクラソウ(Primula sieboldii)は、繊細な花形と淡い色彩が特徴で、湿地や半日陰に群生する野の花です。
江戸時代には品種改良が盛んとなり、花弁の形、切れ込み、にじみや絞りなど、微細な差異を鑑賞する方向で発展しました。

・ヨーロッパ原産の園芸種
プリムローズ(プリムラ・ブルガリス)を基に、さまざまな原種が交配され、ポリアンサ系、ジュリアン系などの園芸種が生まれました。
鮮やかな花色、丈夫さ、花数の多さが魅力で、冬から早春に園芸店を彩るプリムラの多くがこの系統です。

配信元: 花毎

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