
厚生労働省「人口動態統計」によると、1981年以降、長らく日本人の死因の第1位は「がん」となっています。がん患者をはじめ、一般病棟では十分なケアが難しい患者を対象に行われる「緩和ケア」ですが、実は緩和ケア病棟に入院するまでには、我々が想像する以上に高いハードルが立ちはだかっているようです。高島亜沙美氏著・西智弘氏監修『人生の終わり方を考えよう 現役看護師が伝える老いと死のプロセス』(KADOKAWA)より、緩和ケア病棟の実態について解説します。
がん患者みんなが「緩和ケア病棟」に入院できるわけではない
緩和ケアは、入院しないと受けられないと思っている人がいるんですが、そうではありません。外来でもおこなわれています。むしろ、外来がメインと言っても過言ではありません。日本の医療機関における病床数は約150万床(*)、うち緩和ケア病棟の病床数は約1万床です。この通り、緩和ケア病棟に入院することそのものが、狭き門なのです。
* 厚生労働省 令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況 p.12より
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/23/dl/02sisetu05.pdf(2025年4月閲覧)
さらに緩和ケア病棟に入院するためにはふたつの条件があります。ひとつは、悪性腫瘍または後天性免疫不全症候群(AIDS)の診断を受けていること。HIV感染だけではダメです。AIDSを発症していることが条件。
もうひとつは、必須条件とまではいきませんが、末期であるという状態を本人が知っていること。昔はがんと診断されても、本人に伝えず家族だけが知っているというケースがありました。なぜなら、がんは不治の病であり、告知を受けたその日に絶望して自殺してしまうような人もいたからです。けれども、今は違います。がんは、不治の病ではありません。
認知症やその他の既往歴などから総合的に判断され、未告知のまま緩和ケア病棟に入院される患者さんも中にはいます。しかしながら、多くは積極的な治療をする段階ではなく、残された余生をより自分らしく過ごすために必要なケアを受けたい、そのために緩和ケア病棟に入院するんだ、ということを理解されている方がほとんどです。
緩和ケアと「病院経営」は相性が悪い
くわえて、経営上の問題もあります。緩和ケア病棟は、医療機関の一部ですので医療で利益を発生させないといけません。
どこの医療機関でも合言葉のように言われていると思いますが、基本は早期退院。病院は、患者さんを早期退院させるほど利益が上がるようになっています。これは緩和ケア病棟でも同じです。そのため、入院期間が大体1ヶ月ほどの緩和ケア病棟が多いのではないでしょうか。それ以上患者さんを入院させておくと、利益が出なくなってしまうからです。
これは、緩和ケア病棟を終の住処にしようと考えていた人には寝耳に水、ですよね。そのため、緩和ケア病棟で疼痛コントロール、これから起こり得ることへの精神的なケア、家族や関係者への説明や指導などがおこなわれ、最後は自宅で過ごすという人が多いでしょう。
予後が3ヶ月以上ある人は、入院打診の段階でお断りされているケースがほとんどです。なぜなら、その人を入院させても、利益を出すことができないから。
ひどいと思われるでしょうが、患者さんのための医療であると同時に、病院も経営していかなくてはならないという上での判断となります。緩和ケア病棟になかなか入院できないという声を聞きますが、こういう事情があるからなのです。
