夢を諦め、賃貸で生きることを選択
夫婦で何度も話し合いました。妻がパートに出て収入を増やすことも考えましたが、まだ下の子に手がかかるため、フルタイムで働くのは現実的ではありません。
無理をしてローンを組み、教育費や老後資金が足りなくなるリスクを冒すのか。それとも、マイホームという夢をきれいさっぱり諦めるのか。
出した結論は、「購入断念」でした。
「頭金を貯めている間に、逃げ水のように家の値段が上がっていって、結局追いつけませんでした。一生賃貸で暮らすことへの不安はありますが、住宅ローンのために今の生活が破綻しては元も子もありませんから」
高嶺さんは今、子どもたちのために学習机を置くスペースをどう確保するか、狭い賃貸のなかで頭を悩ませています。
「普通のサラリーマンが普通に家を買う。そんな当たり前だと思っていたことが、いつの間にか高嶺の花になっていたんですね」
自分たちの努力だけではどうにもならない時代の変化を前に、高嶺さんは無力感を噛みしめていました。
マイホーム購入には「世帯年収772万円」が必要な時代
高嶺さんが直面した「普通の年収では家が買えない」という感覚は、決して個人の感想ではなく、客観的なデータによっても裏付けられています。
SMBCコンシューマーファイナンス株式会社の「婚活・結婚に関する意識・実態調査」によると、マイホームを購入した既婚者の世帯年収平均は「772万円」でした。高嶺さんの世帯年収550万円と比較すると、200万円以上の差があります。かつては年収400万〜500万円台でも購入可能な物件が多くありましたが、資材高騰やインフレの影響により、購入に必要な年収のハードルが劇的に上がっていることがわかります。
また、同調査では「結婚したときの個人年収」の平均についても、全体で481万円、男性で577万円という結果が出ています。つまり、結婚当初からある程度の高い収入がある層や、夫婦ともに正社員で働き続けるダブルインカム世帯でなければ、希望する条件のマイホームを手に入れるのが難しくなっているのです。
「頭金を貯めてから」という堅実な判断が、インフレ局面では裏目に出ることもあります。現在の市況と自身の収入を冷静に照らし合わせ、賃貸か購入か、あるいはエリアや物件種別を見直すのか、柔軟なライフプランの再設計が求められています。
[参考資料]
SMBCコンシューマーファイナンス「婚活・結婚に関する意識・実態調査」
