昔は大名屋敷が並んだ、由緒正しき土地が麻布台。そこに、30年以上の開発期間を経て、2023年、「麻布台ヒルズ」が開業。世界が注目する名店が集結した。
この地には、麻布随一のガストロノミーが広がりゆく。
川手さんの念願だったターブルドットスタイルの店内。目の前で調理される臨場感とどこか温かみのある空気感との相互作用も魅力
シェフもゲストもひとつのテーブルを囲む一体感あるスタイルが、麻布台の最先端
「以前の青山がトレンドを受け入れる街だとしたら、麻布台は新たなトレンドを発信していく街。訪れる人々にも多様性があり、美食に対する意識がより高い気がします」とはシェフの川手寛康さん。
麻布台に移転して2年余り。美食の殿堂の如き麻布台にあって、そのトップに立つのがここ『Florilège』だろう。
ヒルズの奥に潜む隠れ家のような佇まいに心躍らせながら鉄の扉を開ければ、長さ13mの大テーブルが出迎えてくれる。
ドラマティックな空間で味わう料理のテーマはプラントベース。野菜を主とした料理の数々だ。
メニュー名は「じゃがいも」。コンフィにしたインカのめざめと鱈のペーストをミルフィーユ状にし、白子をのせる
それというのも、これまで世界各地で腕を振るってきた中で「日本を最も表現できる食材は、肉でも魚でもなく野菜」と気付いたからだとか。
「発酵白菜」。
サヨリや海苔を発酵白菜で巻き、フロマージュブランと白菜の汁を合わせたソースでコーティング。ショーフロワというフレンチ伝統の料理をアレンジ。
「かぶ」。塩とバターで炒め煮にしたかぶの上に、塩竈焼きにしたかぶをスライスして並べる。すべてコース(¥23,000)より
とはいえ、殊更に野菜に拘っているわけではなく肉魚も華麗に操る。料理に対する姿勢は至って自然体。
多くの手間をかけながらも、見た目はごくシンプルなひと皿は、本質を見極めつつ枠にはとらわれない“麻布台の王者”である。
■店舗概要
店名:Florilège
住所:港区虎ノ門5-10-7 麻布台ヒルズ ガーデンプラザD 2F
TEL:03-6435-8018
営業時間:12:00~LO12:30/18:00~LO18:30
定休日:日曜ディナー、月曜、火曜ランチ、その他不定休あり
席数:カウンター22席、テーブル8席
2.今生では諦めていた『鮨さいとう』を冠した暖簾を麻布台ヒルズでくぐる高揚感
『鮨さいとう 麻布台』
約30の食の専門店が集まる「麻布台ヒルズ マーケット」の奥にひっそり暖簾を掲げる。賑やかなフロアの中、大谷石の外壁が際立つ
最高峰の鮨店がマーケット内に存在する。その価値観こそが麻布台!
『鮨さいとう』といえば国内最高峰に推す食通も多い名店。
新規予約はほぼ困難だが、同じ暖簾を掲げる唯一の直営店『鮨さいとう 麻布台』が「麻布台ヒルズ」に潜むとは、あまり知られていないだろう。場所は買い物客の往来も激しいマーケットの奥。
白木のカウンター、背後に見られる暖簾に付く紋章も本店の雰囲気のまま。唯一の直営店であるという矜持そのものが表現されている
室内は一転して静謐で、白木のカウンターが現れる。
美しいブロックに包丁を入れる。2年前の開店時から店長を任される滝本さんは滋賀出身。大阪の名店でみっちり修業した後、「三ツ星の景色が見たい」と上京。職人として計12年のキャリアがある
このつけ場を任された鮨職人が滝本純也さん。
『鮨さいとう』の看板に偽りなきよう「期待は裏切れません」と本店と同じ仕事を徹底している。
本店と同じ「やま幸」のまぐろはまず「赤身」が素晴らしい。今日は青森・大間産
握りなら、赤酢と塩だけで塩梅を調えたシャリや、繊細に手をかけたネタはもちろん、赤身、中トロ、大トロとまぐろが続いたあとでイカ、エビに進む提供順も同じ。
滑らかにとろける「中トロ」。
脂の甘みも濃厚な「大トロ」。
『鮨さいとう』の冬の代表作といえば白子とあん肝。つまみは「5~6品を提供してから握りという流れも本店と同じ」と滝本さん。「白子ポン酢」。お椀に盛り付け、温物として扱う手法も本店に倣う。旨みしか感じられない白子のコクに酒が進む
つまみも、季節で替わる本店と同じ料理でそろえる。
「あん肝」は、濃厚なべっこう餡に振り柚子も効かせる。料理はすべておまかせ(¥38,500)より
一部で仕入れ先を産地直送に変更するなど、本店との相違点もあるが、それも、常に高みを目指す師の仕事を見習ってのこと。
食べ手の立場からすれば、幻と思っていた名店のおまかせコースにこうして出合えるのだから、感謝しかない。
3.焼き鳥の名門『鳥しき』イズムを直に感じる。これが麻布台の日常風景
『鳥おか』
店があるのは「麻布台ヒルズ マーケット」の中で、店先に看板はない。「鳥しきICHIMON」のテイクアウト専門店『麻布台 鳥しき』の隣にある扉を開けると店が出現する
専門店が並ぶマーケットに意外な入り口が!
焼き鳥というジャンルの地位を高めた名店『鳥しき』。
続々と門下生を輩出し、「鳥しきICHIMON」結成後はカジュアルラインの『とりまち』の出店や、海外進出も果たすなど勢い止まらずトップをひた走る。その名門の味が、実は麻布台でも楽しめるのだ。
手を休めることなく繊細に串の火入れを行う大平さん。“令和の屋台の焼き鳥屋”をテーマに、屋台骨に見立てた焼き台上の銅板や、赤提灯代わりの赤い看板などがモダンさを演出
『鳥おか』は『鳥しき』の分店で、焼き台に立つ大平貴紀さんは代表の池川義輝さんの元で修業した『鳥かど』の元店主。
うちわをあおぎながら近火の強火で焼き上げる、技術と所作は師匠さながら。
皮目をパリッと強火で焼き上げた「手羽先」は、脂が美味しい福島の伊達鶏の魅力を引き出した逸品。おまかせコース(¥17,600)より
鶏肉の厚さ、串打ち、タレすべて『鳥しき』と同じスタイルで、本店の味を再現。
しっかりと火を通した肉の旨みと脂の甘みに、こまめな串回しによる焦げの薫香が旨みを底上げする。
希少部位の「ちょうちん」は海外の客にも人気。濃厚な黄身の味わいが堪らない。
最初に登場する名刺代わりのひと串は「かしわ」。菱形に串打ちした「鳥しきICHIMON」のシグネチャーだ。
ワカモレの上に炙ったもも肉と野菜のサルサソースを合わせたタコス。風味豊かなトルティーヤも手作り
さらなるお楽しみが、串の合間に提供される料理だ。スターターはなんとタコス!中盤にはグラタンが登場するなど国際色豊か。
過去にメキシコのホテルで料理人をしていた大平さんならではの斬新な試みが、麻布台の焼き鳥界に一石を投じる。
4.ヒルズのBMWの2階には、超予約困難店のDNAを持つ和食店が潜んでいる
『無題』
BMWのブランドストア内に誕生。空間でもシェフの美学は見事に表現されている。唯一無二の空気感で、非日常へと瞬時に誘う
扉を開ければ暗闇に白木のカウンター。これぞ究極のスピークイージー
漆黒の闇の中、カウンターが美しく浮かび上がる『無題』の印象深い空間は「谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』から着想しました」と料理長の鈴木智之さん。
確かに日本古来の伝統的な美意識を説いた同著に相通じる世界観だ。
丁寧に供される料理もまた、BMWブランドストアの2階という立地の先入観を覆す。
お椀は鯛のすり身だけで繋いだ「間人ガニのしんじょとうぐいす菜」。出汁は福井・奥井海生堂の利尻昆布がメイン。「この旨みが全体の7割ぐらいのイメージ」と鈴木さん
鴨なら鴨、カニならカニと主役を堂々と盛り付け。食べると本来の滋味が存分に感じられ、沁みる。
焼物は「鹿児島産真鴨と揚げ葱」。網で捕る天然物で表面は香ばしく、中はしっとり焼き上げた。
目の前で捌く「香箱ガニ紹興酒漬け」。山椒やすだちなども使う特製ダレに3日以上漬ける。料理はすべておまかせ(¥44,000)より
それもそのはず、鈴木さんは、移転前の『青山 えさき』や赤坂『松川』という、最高の食材を全国から集め、慈しむように扱う名店で修業を重ねた精鋭。ポテンシャルを最大限に引き出す繊細な技を身につけ、2024年にこの店を開いた。
自らの感性を活かし、ときに創作もするが、「日本料理の本質は見失いません」とぶれない。
潔い料理の数々はコースの最後まで続く。食べ終えれば、余韻は深く、穏やかな満足感で気持ちまで潤っている。「どの皿も美味しかった」と追想する時間すら、愛おしく思える。
5.大人の遊び心を刺激する。豪気な店主が麻布台に新・鮨劇場を打ち立てた!
『麻布台 ゆう利』
店は飯倉交差点近くの静かな路地に佇む
S級店がひしめき合う地で勝負に出る愉快な新生が麻布台に誕生した
飯倉交差点の程近く、大通りから一本入った路地に、小さく灯る『麻布台 ゆう利』の看板。
和菓子店をイメージしたやわらかな色調の空間。店内は、土壁や大理石を使った上品さと温かみが同居する
隠れ家のような佇まいから一転、扉を開けると店主の髙橋勇太さんが威勢よく出迎えてくれる。
「明るく、楽しく、美味しいものを」をモットーにカウンターに立つ髙橋さん。
古巣譲りの自慢の握り「イカうに」。イカに細かく包丁を入れて、甘みと歯切れの良さを引き出している
元気いっぱいの接客と、3枚重ねの「トロのはがし」や「イカうに」といった珠玉の握りに、鮨通はピンとくるだろう。
「トロのはがし」は塩釜の天然大トロを3枚重ねに。
「香箱ガニ」はカニみそや内子を混ぜたシャリの上に餡をかけ、カニ足といくらをのせる。
特選の巻き物は、大トロ、中トロ、中落ち、赤身をたっぷりと巻いた太巻きの上に、いくらがどっさり。コースに追加で注文を。
脂質15%以上のものしか認められない「トロサワラ」は、豊洲にも上がらない貴重なネタ。口の中でとろける食感と旨みに悶絶。すべておまかせコース(¥33,000)より
髙橋さんは大阪『神田川』で和食の基礎を学び、鮨に転向。恵比寿『松栄』、目黒『鮨 りんだ』を経て2025年に独立した。
「仕入れの目利きに自信あり」と話し、豊洲をはじめ鹿児島の漁師から直送されるネタも味わえ、冬は「トロサワラ」や「クエ」も登場する。
表の別扉から入室する個室も完備。カウンターの中が店内と繋がっていて、店主の髙橋さんが目の前で握ってくれる。現在は常連客のみだが、今後は一般開放も予定しているそう
技術や間合いは言わずもがな、会話のテンポの良さやサービス精神旺盛なキャラで、さっそく麻布台の食通のハートと胃袋を掌握。
高級鮨店が群雄割拠する麻布台の名店候補に、期待の新星が名乗りをあげる。


