◆虚無感との闘い…仕事が唯一の防波堤に
この連載でたびたび引用しているが、『今夜、すべてのバーで』(講談社)で中島らもは次のように語っている。酒をやめるためには、飲んで得られる報酬よりも、もっと大きな何かを、「飲まない」ことによって与えられなければならない。それはたぶん、生存への希望、他者への愛、幸福などだろうと思う。飲むことと飲まないことは、抽象と具象との闘いになるのだ。
実際、当時20代中盤だった筆者は、家族の幸せを願ってはいたが、自分自身は生きる希望もなければ、嫁も子どももいないため守るものもない。そして、筆者か家族か友人が先なのかわからないが、いずれみんな死ぬ……。
そんなことを考えていると、また虚無感に襲われてしまう。だから、酒を飲む。この辛い現実から逃げたいのだ。でも、死ぬような勇気はないから、酒を飲んでふわふわした状態になっていたい。最悪、酒飲んで体を壊せば、この世から抜け出せる……。
嫌な現実から目を逸らすため、辛いことを忘却するために、酒でめちゃくちゃな生活を送りながらも仕事に打ち込む。
仕事を取り上げられたら、それこそ生き甲斐がなくなる。そしたら酒を飲まなくなるのだろうか? そんなことはない。
筆者がここまで極端な考え方になったのは酒のせいではなく、学生時代に経験したアルバイトが人生観に影響していると思う。
当時、働いていた漫画喫茶は非常に治安が悪く、店が店なら客も客という具合に、双方極まった人間しかいなかった。なんにせよ「この人たちのようにはなりたくない」と強く感じたのだ。
アルバイトとして勤務を始めて数週間後には、警察が大挙して客が逮捕され、飲み過ぎているのか、「なにかしら」の影響で全裸になって暴れる客を取り押さえ、トイレはいつも吐瀉物まみれ。そして、100円単位の延長料金に難癖を付けて怒り出す大人と、「持ち合わせがないから」と言って逃げ出す大人、店内の備品を盗んで無断で飛ぶ大人……。
「こんな大人にはなりたくない」
働いた期間は4年ほどだが、この空間で嫌というほど嫌な大人たちを見てきた。そして、「自分はこういう大人にならないためにも、必死で働いて仕事にあぶれてはいけないのだ」と、強迫観念を感じるようになったのだ。
そのため、どれほど編集者の仕事が大変でも、今の仕事を辞めてしまうと、またここに戻ってきてしまう……。だからこそ、酒浸りになりながら、毎日ハードワークをこなす筆者には、仕事を辞めるという選択肢はなかったのだ。
◆“ストロング沼”に両足を突っ込んだ
第2回で述べたように、とある雑誌の企画でストロング系缶チューハイ(ストロング系)の危険性を促す記事を作っていたところ、筆者自身がストロング系にハマってしまった。これはストロング系の依存性うんぬんではなく、単純に筆者がウォッカを毎日飲む「習慣飲酒」の前提があったからであり、それよりもコスパの良いストロング系に変わったというだけである。また、近所のコンビニからウォッカが置かれなくなってきたため、そろそろ飲む酒を変える必要性も出てきたのだ。
ウォッカを毎日飲む生活も、最後のほうは毎日一瓶飲み干していたため、かかる費用は毎日600円。それがストロング系の場合は500ml缶3本と300ml缶2本でほとんど同じ値段である。
しかも、ウォッカを原液で喉に流し込むのと違って、ストロング系の場合は人工甘味料で甘く、まるでジュースのようにゴクゴクと何間も飲み干せた。
また、翌朝もとんでもない二日酔いになることも少なくなった。やはり、直接アルコールをそのまま流し込むよりも、炭酸や人工甘味料で割ったストロング系のほうが、体への負担は少ないのだろう。というよりも、ウォッカの瓶に毎晩直接口を付けて、「カーッ!」と言いながら飲んでいた頃がおかしかったのだ。
こうして筆者の晩酌はストロング系に変わった。毎晩、ストロング系350mlを2本と500mlを3本飲むようになったが、これはいろいろと「調整」した結果、このアルコールの分量が筆者にとって「適正」だと判断したためである。
何を言っているのかわからないかもしれないが、「飲んだ容量(ml)×アルコール量(%)×0.8(比重)」で純アルコール量を計算することができる。それで、筆者が気持ちよく泥酔、失神できるための純アルコール量は「158g」ということがわかった。詳しくいうと、ストロング系350mlを2本と500mlを3本飲んでいたため、「2200ml×9%×0.8=158.4g」である(ちなみに、厚生労働省によると「生活習慣病のリスクを高める飲酒量」の1日当たりの純アルコール摂取量は男性で40g以上である)。
これを下回ると酩酊くらいで終わってしまい、超えてしまうとたった数gなのにもかかわらず、翌日は二日酔いに襲われるのだ。
どのように計算していたかというと、当時、スマートフォンに沖縄県が開発した「うちな~節酒カレンダー」という、日々の飲酒を記録するアプリを入れていた。
これは「どのようなお酒を何杯飲んだのか?」ということを記録して、飲み過ぎを防ぐためのアプリで、例えば「ビールを1本」飲むと画面上のシーサーがニコニコ顔で「ほろ酔い期」となり、ストロング系を2本飲めば目がグルグル回っているシーサーが「酩酊期」を示してくれるものだ。
ただ、筆者はこのシーサーに毎晩150g以上のアルコールを飲ませていたため、常に「昏睡期」に陥らせてしまい、シーサーは小便を垂らしながら、白目を剥いて倒れていた。
そういえば、一度、吉祥寺でガールズバーのキャッチに声をかけられたことがある。普段は聞く耳も持たないのだが、その日は仕事がうまくいき、みんなからもチヤホヤされたため、気分よくホイホイついてしまった。
そこで、ブラックニッカをロックでガバガバ飲まされた結果、記憶を失ってしまった。気が付いたら、家のベッドの上。手元にはタクシーのレシートと10万円の領収書があった。決して、筆者もザルのように酒を飲めるわけでもないのだ。
ただ、この10万円で何本、ストロング系が購入できたのだろうか……。

