◆「好き」と言わない男・春斗の闇
――キャラクターといえば、7話でついに、しずみの“ピ”(好きな人)である春斗が登場しました。にくまん子:傍から見れば「この人、何なの?」なんだけど、「恋愛している当事者から見える姿」を描きたかったんです。春斗は……闇が深いですよね。自分勝手なはずなのに、それが魅力にもなっていて、しずみに好かれている。
春斗は言葉のやりとりに慎重で、「好き」となかなか言わない。たった2文字で好意を示せるのに、あえて言葉にしたくない人っているよなぁ、と思いながら描いています。

にくまん子:理由を聞くと「大事なときにしか言いたくない」とか返ってくるんですよ。いや、大事な時っていつよ!?(笑)
「好き」と言うことで、相手が言葉以上の意味を受け取ることもあって、責任とか証拠みたいな、見えない束縛を感じるのかもしれない。きっと言葉から派生するあれこれが、ただただ面倒くさいんでしょうね。でも、しずみはその“面倒くささ”を欲している、という……。
◆「言葉はホモサピエンスに与えられた能力」

にくまん子:「同じ熱量で返さなきゃいけないから言わないようにしている」……なるほど、そういう考え方もあるんですね。
――編集部からは「奥手で言えないタイプもいるのでは?」との声も。
にくまん子:言葉はホモサピエンスに与えられた能力ですよ!? 恥ずかしいとか、言った結果どうなるかとかは、この際いったん捨ててほしいです。私は相手に「好き」を投げかけてほしいし、自分からも投げかけちゃうタイプ。学生時代から友人に「恋の駆け引きが苦手だよね」とよく言われていました(笑)。
――かなりのド直球ですね。
にくまん子:そういう意味では、要素はありつつも私は「しずみマインド」ではないのかもしれません。コロナ禍も経て、何が起こるかわからない今の時代だからこそ、自分から「好き」と言っていきたいんです。
――今後の展開について、話せる範囲で教えてください。
にくまん子:恋愛が主軸ではありますが、人間って恋愛だけが独立して存在しているわけじゃない。しずみにも、恋愛だけでなく、傷ついたり救われたりした背景があって、今があるはずです。今作でも新しい作品でも、家族や男女のさまざまな関係を描いていきたいですね。
悶子のことは好きすぎて、ついいろいろ描きたくなるんですが、彼女はあくまで観察者。メインになりすぎないように気をつけつつ、彼女の恋愛事情なんかも、どこかで描けたらと思っています。
【プロフィール】
にくまん子
漫画家。日常のふとした瞬間に垣間見える人間模様や、愛憎入り混じる人間たちの機微を掬い取り、鮮烈に描き出す。2019年に刊行された、愛しきダメ女たちのやっかいな恋と人生の物語を描いた短編集『泥の女通信』(太田出版/「完全版」は2024年にWECOMIXから)で注目を集める。その後、『恋煮込み愛つゆだく大盛り』や『涙煮込み愛辛さマシマシ』、『いつも憂き世にこめのめし』(いずれもKADOKAWA)などを発表。中毒性の高い作品で熱狂的な支持を集めている。現在は「マンガSPA!」にて『恋のクズと愛のカス』(扶桑社)を連載中。
(写真/星 亘 取材・文/もちづき千代子)

