◆禁酒法時代のように隠れて飲酒する始末
順調にキャリアを積んでいき、ついには特集によっては自分がイニシアティブを握るようになった。20代後半でようやく手にしたポジションである。それはもう、イキり立っていた。
しかし、いくら働いても、いい記事を作っても、最高の表紙ができても雑誌が売れない……。雑誌読み放題サービスのバブルは崩壊してしまい、雑誌存続のためにさまざまな施策を試さなければならなくなった。
こうなると、「雑誌の売れ行き」というのは新たなストレスになった。本来は自分の健康のことだけをまず、考えなければならないものだが、少子高齢化社会や親の介護など余計な心配を抱えてしまうような筆者だ。
そんな中、母親と妹と暮らすようになった。要は「私生活が終わっている息子」のことを心配していたのだ。
さすがに家族の前で毎日ストロング系を5本もプシュプシュ開けて飲んでいられない。そのため、自室で布団を被って音が最小限になるようにゆっくりと缶を開けて、コッソリと飲むようになった。
空き缶は台所に捨てるとバレるため、夜中にマンションの共有用のゴミ捨て場に捨てに行くか、仕事用のリュックサックの中に隠した。そして、翌日、会社内の自動販売機の隣に設置されてあるゴミ箱に捨てていた。週に何度か空き缶の回収のために業者がやってくるのだが、缶コーヒーに混じってそこそこの量のストロング系の缶が捨ててあることに驚いただろう。
そして、この頃、家族で住んでいたのは繁華街である。筆者が帰宅する終電過ぎはガールズバーやキャバクラのキャッチでいっぱいなのだが、そこを通過しないと帰宅できないのである。
そして、彼らは強引に呼びかける。無視しても手を引っ張ってきたこともある。2020年代だぞ?
「どうすれば、このキャッチに声をかけられずに済むのか……」
そこで、そのキャッチたちでミチミチの通りを歩くときは、事前に500mlのロング缶を飲みながら歩くことにした。すると、向こうも「もう飲んでいるなら声かけられないな」と思ったのか、誰からも声をかけられなくなった。
ただ、毎晩飲みながら帰っていたため、あるとき若いキャッチに声をかけられた。
「おっす! スト缶のアニキ! 今日もうまそうに飲んでいますね」
それは、毎晩のようにストロング系を飲みながら歩いている球体みたいな体型の筆者である。逆にキャッチの人たちから顔を覚えられてしまったのだ。
◆「肝硬変になるような数字」にさすがにビビる
その頃、雑誌の仕事と並行して何気なく始めたライター業が当たった。そこからは、雑誌の編集者としての本業とライターという副業の両方を回さなくてはならなくなった。忙しさはさらに増していき、もはや「睡眠時間はいらない」と思ったほどである。そんなことをいいながら、過眠症なので10時間くらい寝るのだが……。
こうなってくると、時間と抱えている業務量に押しつぶされるようになった。平日は深夜まで雑誌の仕事に邁進し、週末も昼から晩までライターの仕事に精を出した。
そして、かねてからの悪癖だが、アルコール摂取をしながらのほうが、いい文章を書けている気がする……。そこで、夜にもう一踏ん張りするために、景気付けに追加で1本飲むようになった。
「19時に飲んでも、どうせ寝るのは2時とか3時だから、それまでには体内のアルコールも抜けているだろう」
夜遅くになるとオフィスからも人が少なくなるため、近くのコンビニで350ml缶を購入してがぶ飲みして、また仕事に戻る。すると、集中力と無精力が格段に上がるのだ。
「自分は今、酒の力ですごい文章を書いている! 俺って天才かも?」
単純に気分が高揚しただけであるが、確かに酒を飲むことで執筆は捗った。業務用のメールは打てない。
しかし、酒の力を借りなければ捌ききれない数の原稿の編集と執筆に追われていたのは確かだ。当初は夕方頃に1本飲んでいたのも、気が付いたら2本追加されていた。
当時はまだテレワークで会社もフリーアドレスだったため、社内にそんなに人はいない。また、飲酒しても顔が赤くなったり、人が変わるようなことがなかったため、コンビニで慌てて2本購入して飲み干したあとも、平気な顔をして会社に戻ることができた。
というのも、マスクのおかげである。以前、合コンで知り合った看護師から、こう言われたのだ。
「わたし、朝まで飲み歩いていることが多くて、翌日も酒臭いときがあるんですよ。でも、酒の匂いは口からしかしないため、マスクを付けていればバレません。わたしはそれで手術にも臨んでいます」
どうやら、筆者だけではなく、この社会を生きる人たちはみんなデタラメなやり方で仕事をしているようだ……。
しかし、実際にマスクをしていることで、勤務中に酒を飲んでいることはバレなかった。
それはそれとして、いよいよ毎日のストロング系の飲酒量が7本を超えた。すると、ついに29歳の健康診断でのγ-GTが600を超えてしまったので、ついに医者から「要治療」ということで呼び出された。普通だったら肝硬変になるような数字である。
ただ、このときも「前日に友人の結婚式で朝から晩までしこたま酒を飲んだのだから、それの影響だろう」と勝手に判断した。あとは、体重と脂肪肝もそろそろシャレにならなくなってしまったため、運動を勧められた。
しかし、朝は起きられずに夜は飲酒しながら仕事に勤しんでいる身である。それと、喫煙者だ。ちょっとした運動でも嘔吐してしまう可能性は十分にある。
そこで、職場から家に帰るときに2時間くらいかけて2万歩は歩くようにした。本来であれば健康のための運動なのだが、夏に差し掛かっているので、少し歩くだけでも喉が乾く。それに、ただ歩くだけではつまらない。
そこで、帰り道にあるコンビニでストロング系を購入。飲みながら歩くと、つまらない散歩も一気に楽しくなる。そのうち、夜の散歩が楽しくなってしまい、飲みながら帰りたいがために、18時に仕事を終えたのはいいが、その後は日付が変わるまでストロング系を2本飲みながら、もう片方の手にはスマートフォンで『太田上田』の動画を見ながら、歩き回るようになった。
そして、ヘトヘトになりながら家に帰り着き、また家族に隠れて酒を飲む……。考えてみると、この頃から生きるための比重が酒に大きく傾いたのだろう。もはや、仕事よりも飲むことが優先されてしまう「精神依存の重篤化」である。

