◆洞窟での生死に関わる“メンタルの骨格”とは?
──そんな人生を懸けてきた洞窟探検において、一番の学びとはどういうものですか。吉田:洞窟探検は体力も重要ですが、それよりも「メンタルの骨格」が大事なんです。洞窟という閉鎖空間で自分や仲間をコントロールすることは本当に難しい。恐怖を感じて、パニックになった瞬間に生存率はゼロになる。だから、究極の状況のなかでも、冷静沈着に判断できるかどうかですべてが決まる。
──探検する際、「死なないためのリスクマネジメント」を念頭に置いていることは意外でした。
吉田:生きているからこそ説得力があるし、次の探検にも出かけられる。だから、「勇気ある撤退」ではなく、「怖いなら帰ればいい」という考え。無理して一度では行ききらず、何度も通いながら少しずつ前進して、洞窟の全貌を明らかにしていくスタイル。16年間かけて調査した洞窟もあります(笑)。
──想像以上に骨が折れる作業ですね……。
吉田:好奇心が恐怖心を上回ってしまう瞬間が、最も危険なんです。特に水中の極端な狭隘(きょうあい)部では、ヘッドライトを消し「メンタルの視野」を狭くして、余計なことを考えずに手探りで目の前の動作だけに集中する。これまで首以外の骨がすべて折れて、水中洞窟で遭難してきましたけど、生きて帰ることへの執着心は人一倍あると思います。
──その結果、’24年には植村直己冒険賞を受賞されました。
吉田:受賞の連絡をもらったときは驚きました。僕は単純に世界にある未知未踏の地に行っているだけで、自分には関係のない賞だと思っていたんですよ。勘違いされるんですけど、別に洞窟が好きなわけじゃないんですよ。だって、洞窟の中は、「痛い・狭い・苦しい」という人間が嫌だと思うものが揃っている空間じゃないですか。
──嫌なのにやめない理由は?
吉田:ときめくものが洞窟以外に見つかっていないから。それと、「日本人で誰よりも多く未踏の空間に入った人間」ということは誇れる結果かもしれない。
◆事務所に残る、30年分の夢の軌跡
──事務所の2階には、大きな移動式洞窟(※4)「クレイジーマイン」が置いてありますね。これはどういった経緯で?吉田:僕は洞窟に育ててもらったと思っているから、洞窟におけるメンタルの大事さをもっと手軽に知ってもらいたくて、構想を練りました。分解できる移動式の洞窟なので、催事場などに置けて、子供や大人も体験できるものです。最初はクラウドファンディングや企業スポンサーに提案してみたものの、儲けが先行で話が進まない。できない理由を探して諦めたら、自分が許せないんですよ。だから結局、トータルで1500万円ぐらい借金して形にしましたが、用途に困っています(笑)。でも、バカしか世の中は変えられない。それが活動の源ですね。

吉田:3年前ぐらいに一流企業を辞めてウチに来たんだけど、最初に「Z世代なんで褒めて育ててください」って言われたんです(笑)。ウチの仕事はキツいからすぐに辞めちゃう人が多いなかで、いいものを持ってる。僕のSNSで紹介したら、『師匠にタメ口の小僧は何者だ!』って批判コメントが殺到してたけど、敬語に直してもつまらんし、仲間に近い関係で楽しんでます。
こうちゃん(以下、こう):今は事務所に住んでいて、トイレと風呂と寝るとき以外は一緒だから、社長と従業員っていう感じじゃないかもしれない。かっちゃんは弱点があって、メンタル無敵の人だけど、ゴキブリだけ苦手なんですよ。
吉田:それ唯一の弱点。あれを見るだけで半泣きになるわ……。
こう:普段は「俺が洞窟で先頭に立てなくなったら、探検家は引退する!」とかカッコつけてるのに、こないだ洞窟内でゴキブリに似た虫が壁中を這い回っていて。「おまえ、先に行け!」って背中を押されました(笑)。
吉田:未踏の洞窟でもゴキブリがいそうなところは行かない!
──楽しそうでいいですね。今年、還暦を迎えますが、洞窟探検にも耐えるタフな健康体を維持する秘訣は何でしょうか。
吉田:睡眠は5時間ぐらい、食事はお腹が減ったら素材に近いままで食べるようにしてます。昔は筋トレをしてましたが、今は探検をしながら実戦で体力とメンタルを鍛えている。ほかは毎日しっかり歯を磨き、月一回は歯医者でケアしてもらい、歯の健康を保つようにしてます。
──最後に、今の夢を教えてください。
吉田:実現するまで諦めないから、明確な夢は持ったことがないんです。だから、あえて言うなら常に「夢の途中」にいる感覚。無限の欲望のままに全力疾走して、死ぬ日までワクワクし続けたいです!
【Katsuji Yoshida】
洞窟探検家。1966年、大阪府生まれ。洞窟のプロガイドとして講演するほか、洞窟探検ツアーなど主催。著者に『洞窟ばか』(扶桑社)、写真集『洞窟探検家 CAVE EXPLORER』(風濤社)など。また、YouTube「吉田勝次の地球探検TV」で洞窟探検動画を配信している
(※1)植村直己冒険賞
日本人初の世界最高峰・エベレスト登頂を果たした世界的な冒険家・植村直己の精神を継承する人物や団体に贈られる賞。今年で第30回を迎える
(※2)ナムロッド洞窟
ラオスにある世界最大級の洞窟。’22年に行われた2回目の調査は、テレビ番組『クレイジージャーニー』(TBS系)でも放送された
(※3)情熱大陸
’17年6月に取り上げられた。当時50歳のリアルな地底探検にカメラが密着。吉田氏が真剣に語る「うんこの話」が世間で話題になった
(※4)クレイジーマイン
洞窟創作家として、オリジナルの洞窟迷路を制作。数々の洞窟探検を基に細部まで計算されて設計され、リアルな洞窟の世界を体験できると話題に
(※5)こうちゃん
’23年から、吉田の弟子として活動をともにしている洞窟探検家の竹内孝騎氏。実子からは「親父の老後の面倒はこうちゃんに全部任せます」と託されている
取材・文/吉岡俊 撮影/竹内孝騎(地球探検社)
―[インタビュー連載『エッジな人々』]―

