年金繰下げ受給の盲点
老齢厚生年金は、65歳の前月までの厚生年金加入期間で計算された額に対し、繰下げで増額できることになってはいます。しかし、老齢厚生年金を受給する人が厚生年金に加入している場合には「在職老齢年金制度」の対象になるため注意が必要です。
在職老齢年金制度とは、月額で、①老齢厚生年金(報酬比例部分)の年金、②標準報酬月額、③直近1年の標準賞与額の12分の1を合計して51万円(2025年度の場合)を超えると、超えた分の2分の1の①の年金が支給停止になる制度です。ちなみに、在職老齢年金制度の対象となるのは①の報酬比例部分であるため、老齢厚生年金のうちの経過的加算額や老齢基礎年金は対象外となります。
そして、仮に65歳から受給して上記①が支給停止となるような人が年金を繰り下げた場合、老齢厚生年金は「在職支給停止がかからない額」のみが増額対象となります。
Aさんは給与が高く老齢厚生年金が支給停止となるため、繰下げをしても老齢厚生年金(報酬比例部分)は一部しか増額されていなかったのでした。
ねんきん定期便の繰下げ増額の見込額は、在職停止が考慮されないまま70歳開始で42%、75歳開始で84%増えた額が表示されています。しかし、その見込額のすぐ上に「65歳以降で厚生年金保険の被保険者等である場合は、在職支給停止額を差し引いた額が、繰下げによる増額の計算対象となります」と記載されています。在職中の場合はこの点をあらかじめ確認しておかなければなりません。
法改正にもよっても影響を受ける
2025年度に51万円だった在職老齢年金制度の基準額は、2026年度から65万円に変わります。
これにより、支給停止がかかりにくくなる一方、標準報酬月額の上限(現行制度:32等級・65万円)も今後段階的に引き上げられることになります(新しい上限額として2027年9月に33等級・68万円、2028年9月に34等級・71万円、2029年9月に35等級・75万円を新設)。
これらを踏まえて在職支給停止額が計算されるとなると、繰下げ増額分にも影響を与えることになるでしょう。
年金繰下げによって将来の受給額がどれくらい増えるかは、65歳以降の在職の如何や、在職中の給与額によって変わります。
繰下げを検討する際は、増額がいくらになりそうか、条件(給与等や繰下げ開始時期)が変わると増額分がいくら変わるか、事前に確認しておくと良いでしょう。
五十嵐義典
特定社会保険労務士/CFP
株式会社よこはまライフプランニング 代表取締役
