◆高校受験で焦りを感じ、大人と真剣に向き合う

佐藤果玲奈:中3まではまったくしませんでしたね。そもそも学習の習慣がなくて。下校して家に帰るとご飯たべて寝ちゃって、そのあと22時に起きて深夜までスマホいじって……気づいたら朝を迎えていることもありました。成績は散々でした。
――変わったのは、受験ですか。
佐藤果玲奈:そうですね。本当にこのままだと進路がないとわかって、焦ったんです。でも勉強には関心が持てないし、そもそも難しくて。そこで放課後デイサービスを利用して、マンツーマンで教えてもらったんです。勉強が楽しくなったとか、そういうドラマみたいな展開はないんですが、スタッフの皆さんの熱意が本当に嬉しくて。初めて大人から真剣に向き合ってもらったなと思って。
――学習姿勢が変わった。
佐藤果玲奈:変わりました。恥ずかしい話、中1のときはクラス全体で先生のことをからかって泣かせてしまったこともあって。私もそれに加担していました。けれども、放課後デイサービスのスタッフさんが「焦らなくて大丈夫だよ」「無理なくていいからね」と言いながら、こちらのペースに合わせてゆっくり教えてくれたので、期待を裏切りたくないと思うようになったんです。もしも私が中1のときみたいな授業態度だったら、スタッフさんたちがガッカリするだろうし、そういう人間に戻りたくないなと。
――進学した高校では、生徒会長もやるわけですね。
佐藤果玲奈:はい、偏差値は40にも届かないような高校ですが、中3のときに感じた感謝を持ち続けられたかなと思います。中学卒業のとき、スタッフさんたちが「何か悩んだら、またいつでも来てね」と優しく言ってくれて。結果的には、ありがたいことに相談するような悩みもなく高校も卒業できたのですが、あの言葉は私にとって支えでした。
◆就職先で辛酸をなめた経験を活かしたい
――いま、なぜ境界知能当事者の体験談を集めているのでしょうか。佐藤果玲奈:当初は、アプリケーションソフトを作りたいと思っていたんです。境界知能といっても、個々で特性が違います。私についてお話すると、私は視覚情報を処理するのは比較的得意なんです。でも耳からの情報を苦手としています。社会人になると、よく「メモをとりなさい」と言われることが多いですよね。私は書くことに集中しすぎるため、話の内容をほぼ理解できません。あるいはメモはとれても、字が汚すぎて読み返せないこともあります。普通の社会人としての生活を送るのは、職種によっては致命的だと思います。そうした人たちの個別的な特性を把握して、アプリが「この人にはどんなアプローチをすれば伝わりやすいか」を解析して、他の人に紹介してくれるようになればいいなと思ったんです。
――ご自身も、社会人生活が苦しかったですか。
佐藤果玲奈:工業高校に進学したおかげで、複合機関連の大手企業の子会社に就職が叶いました。その会社での仕事の内容は、比較的“見て覚える”タイプのものであり、私の関心にも合致していて、順調だったと思います。しかし会社の方針転換とともにアナログな部署が存続できるのか不安を覚え、中古車販売の広報に転職しました。今度は電話受けなども業務に含まれており、メモがとれない私は苦戦しました。また、先輩社員から「年齢のわりに能力が低い」「前職が有名な会社なのに……」「いてもいいけど、何もしなくていいよ」などとパワハラとも受け取れる言葉をかけられ、半年ほどで退職に至りました。
――つらいですね。一方で、転職の前後ではご結婚もなさっていますね。
佐藤果玲奈:はい、プライベートは優しい夫に恵まれました。同棲するときに「境界知能なんだよね」と打ち明けても、「俺がいるから大丈夫だよ」と理解を示してくれました。一般に結婚などの障壁にもなり得るかと思いましたが、ご家族も受け入れてくれて、とてもありがたく思っています。

