◆「罪悪感もくたびれてくる」50代で手に入れた心の余裕

まんきつ:それも慣れです、慣れ!……と言えるようになるまでが、めちゃくちゃしんどいんですけどね。私も雑誌で漫画連載を始めたばかりの数年間は、常に締め切りに追われてメンタルがボロボロでした。「早くこの仕事から逃げたい……」とすら思っていたほど、週刊連載は過酷でした。
でも、そこを一度乗り越えたら、締め切りがある状態が異常事態から日常になってきて、うまくやれているというより、鈍くなったのかもしれません。そのおかげで、前よりは休み方もわかってきました。
──罪悪感と折り合いをつけたというより、いつの間にか慣れて順応していったと。
まんきつ:だってね、もう50代ですもん。図太くもなりますよ。「休むのが下手な70歳」って、あまり聞かないじゃないですか。年を重ねれば、のんびり過ごすことが普通になっていく気がします。年齢とともに、罪悪感もくたびれてくるのかもしれません。
──これから歳を重ねていくことは楽しみですか。
まんきつ:不安はありますが、先が見えない面白さはありますね。10年前の自分が、今を想像できていなかったように、老後がどうなっているかも全然わからない。海外にいるかもしれないし、もう死んでいるかもしれない。
でも、うちは長生きの家系で、母方には100歳超えがバンバンいるので、なんかすごい長生きするような気がするんです、私。だから、なるべく健康な年寄りになりたい。そのためにも「休む」は大切にしていきたいです。
◆数時間で結果が出る「料理」が、漫画で疲れた脳を癒やす
──ヒルに血を吸わせるなどの『美容バカ』での体当たりな挑戦や、先ほどのアルバイトのお話もそうですが、新しいことへの探究心がすごいですよね。まんきつ:年齢とともに脳は衰えていく一方ですが、以前読んだ本に「新しいことにチャレンジすれば脳の神経は育つ」と書いてあって。私は一日でも長く漫画を描き続けていたいので、意識的に脳へ刺激を与えていきたいんです。
──では、最近チャレンジしてよかったことは何ですか?
まんきつ:去年、水キムチを作ったことがめちゃくちゃ楽しかったです。私、冷麺が好きなんですけど、本場の冷麺のスープって水キムチの汁を使うんですよ。韓国の人って、野菜を食べるためじゃなくて、汁を飲むために水キムチを漬けるんだそうで。その発酵した汁を使った冷麺のおいしいこと! そんな初めての経験をしているときは、「ああ、脳がすごく喜んでいる!」と感じます。
──今年、新しくチャレンジしたいことは?
まんきつ:やりたいことリストは山ほどあるのですが……ひとつは『サイレントヒル』というゲームに登場する「バブルヘッドナース」のコスプレ。コスプレは未経験だけど、挑戦してみたいんです。 もうひとつは、タイやラオスで食べられている「ラープ」という料理を作ること。

まんきつ:肉や魚と「炒り米」を使ったサラダです。生米を炒って、すりこぎで粉にする工程があるらしくて、そういう面倒な手間をかけるのがまた楽しそうで。 漫画は完成まで1か月以上かかりますし、読者の感想が届くのはさらに先。でも料理なら、2時間もあれば結果が出る。そのスピード感も、私にとっては良いリフレッシュになるんです。
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後編では、現代社会に蔓延する「休み下手」の実態や、強制的に脳を休ませるヒントについて、新連載の内容を交えながら深く掘り下げていく。
【プロフィール】
まんきつ
1975年、埼玉県生まれ。漫画家。2012年に開設したブログが話題となり、2015年にはアルコール依存症経験をつづった初の単行本『アル中ワンダーランド』(扶桑社)を刊行。その後は、北関東に住むアラサーの日常を描いた『ハルモヤさん』(新潮社)、愛犬2匹とのにぎやかな日常を描いた『犬々ワンダーランド』(扶桑社)などを発表。サウナを舞台にしたエッセイ漫画『湯遊ワンダーランド』(扶桑社)は、2023年にともさかりえ主演でドラマ化された。現在は、『そうです、私が美容バカです。』(マガジンハウス)の続編の準備をしながら、「マンガSPA!」にて『何もしないをしに行く日』を連載中。
撮影協力/黄金湯(東京都墨田区) 写真/山田耕司 取材・文/むらたえりか

