「あっ、そのお話、さっきも伺いました(笑)。次へ進んでもいいですか?」
政治・経済から国際情勢まで、一線級の論客たちが時に声を荒らげ、時に放送コードギリギリの持論をぶつけ合う異色の討論番組『そこまで言って委員会NP』。議論がヒートアップし過ぎて堂々巡りになると、議長を務める読売テレビの黒木千晶アナウンサーは、海千山千の猛者たちに物怖じせず、事もなげに笑顔で言い放つ。ネット上でも「彼女の一言で番組が締まる」「猛者ぞろいのおじさんを確実に捌いている」と絶賛の声が相次ぐ。畏怖の念を込めてもこうも呼ばれている……、“猛獣使い”。
◆透明な糸を張ってカオスを愛でる

「『司会は存在しないのが理想』、ジャーナリストで前任の議長だった辛坊治郎さんから引き継ぎの際にそう教えていただきました。意識としては、私から論客の皆さんに“透明な糸”が放射状に伸びているイメージ。何かあれば手応えを感じてピッと引っ張る。でも、こちらから言葉の格闘技に無理に割って入ることはしません」
暴走は、むしろ大歓迎だ。実際、現場では凄まじい言葉の応酬が繰り広げられている。 公明党の連立離脱を巡り、作家の竹田恒泰氏が「ようやく煩悩から解き放たれて解脱した」と独特の表現で大暴走する。さらに、中小企業の賃金問題に関する経済学者の竹中平蔵氏の分析を、ジャーナリストの須田慎一郎氏が「それはトヨタの理論だ」と一喝するシーンもある。論客たちが放つ、うがった見方や極論。それらが真っ向からぶつかり合うことで、彼らは声を荒らげることも珍しくなく、次第に現場の熱気は最高潮に達していく。
「高い専門性を備え、自分の意見に確固たる自信と情熱を持つ方々が集まっているからこそ、むき出しの個性がぶつかり合うことで生まれる“化学反応”を、面白がっていたい。それに、不思議なことに自然と笑いも生まれるんです。私はセンターにいますが、感覚としては空気に近いです」
同時に、元外交官で外交評論家の宮家邦彦氏に「宮家さんは、CIAですか?」とツッコミを入れたりと、その場を楽しんでいる一人の「聴衆」でもありたいとも語る。
「家でテレビを見ている私が『今、ここが気になる』と思った瞬間に、スタジオの私も同じことを質問している。そのバランス感覚は、失わないようにしています」
支配や管理の罠に嵌らず、相手のエネルギーを最大化させる“空気”に徹する。この謙虚なスタンスこそ、相手の心を開く土台となるのだ。
◆「忖度」はしない。「排除」もしない。

「『それ、さっきも聞きました』って、普通に言っちゃいます(笑)。もちろん、言い回しはオブラートに包みますし、タイミングにも注意を払います。でも限られた時間ですから、その方のもっと面白い話や自分の知らない世界について聞きたいじゃないですか」
拒絶ではない。次の扉を開くための関心の表明だ。黒木氏はその意図を、こう語る。
「あなたに興味があるからこそ、次のステージへ進みたい。否定でなく深掘りによって、次の局面に移行したいという感覚です。このポジティブな変換があれば、相手の自尊心を傷つけずに場を動かすきっかけになると思っています」
それでもなお議論が迷走を続けるとき、黒木氏が頼るのは意外にも言葉ではない。
「本当に困っているんですと、表情で勝負します(笑)。だいたい竹田さんが、オチに向けた助け舟を出してくれます。結局、嫌われる恐怖よりも、好奇心のほうが勝ってしまうんですよね」
ただし、誰に対しても譲らない一線もある。
「人として失礼な発言があった時は、『今のは、ダメですよ』とはっきり伝えます。そこは一人の人間として正しく、誠実でありたい。逆に、どんな極論であっても、それがその人の真剣な意見であるなら、まずは楽しみ尽くしたいです」

