「1,500万円、いますぐ払え」溢れる地元愛で東京からUターンし、大きな実家で両親・妻子と暮らす幸せな55歳公務員の長男。父の死後、東京から来た高収入エリート次男の“非情な宣告”で詰んだワケ【税理士の助言】

「1,500万円、いますぐ払え」溢れる地元愛で東京からUターンし、大きな実家で両親・妻子と暮らす幸せな55歳公務員の長男。父の死後、東京から来た高収入エリート次男の“非情な宣告”で詰んだワケ【税理士の助言】

親の遺産が「実家だけ」という家庭ほど、争族に発展しやすい傾向があります。親と同居してきた子は「このまま実家に住み続けたい」、離れて暮らす子は「法定相続分を現金でキッチリもらいたい」とそれぞれに主張があって……。現金と違い、物理的に半分に割ることができない不動産は、きょうだい間の感情と権利が激しく衝突する最大の要因です。本稿ではAさんの事例とともに、預貯金が少ない家庭が実家を手放さずに遺産分割を成立させるための現実的な選択肢について木戸真智子税理士が解説します。

地元を愛し、家族を愛する兄

55歳になるAさんは、自他ともに認める「地元愛」の強い人です。近所付き合いも大切にし、地域の行事には率先して参加していました。

東京の大学に進学はしたものの、卒業後は「やはり地元に貢献したい」という気持ちが強く、地元の公務員試験に向けて勉強します。結果は合格。Aさんは長男ということもあり、地元で就職することを両親も大変喜んでくれました。

就職後は、地元の温かい人たちに囲まれて過ごしてきました。「ああ、幸せだな」Aさんは自分の幸せがなにか、若いときからよくわかっていたのです。

結婚後も両親と同居し、ときには両親に助けてもらいながら夫婦で協力して、大家族の温かさの中で子育てをしました。しかし、月日の流れとともに避けて通れない「両親の介護問題」が浮上します。介護は、子育てとはまた違った大変さがありました。妻と協力しているものの、出口のみえない日々に疲れ果て、夫婦喧嘩に発展してしまうことも。それでも、そばで親孝行ができる有難みも感じており、家族一丸となって乗り越えてきたのです。

そんな折、父に病気が発覚し、闘病生活が始まります。繰り返す入院や通院、薬の管理、ケアなど、苦労が絶えませんでしたが、家族で励まし合って看病してきました。しかし、闘病の末、ついに父の相続が発生します。落ち込む母を励ましながら、Aさん自身も「いつかは来るものとわかっていたが、もっと長生きをしてほしかった」と涙します。

父を見送るのは辛く悲しいことでしたが、落ち込んでいる時間はそんなにありません。家族なので、父の財産の行方についても考えなくてはならないからです。
 

久しぶりに再会した弟、切り出された「公平な分配」の要求

相続の話し合いのため、Aさんは久しぶりに弟と顔を合わせました。弟は東京の大手企業に勤めており、いまは海外出張も多く、忙しいサラリーマンです。以前よりも精悍さを増した弟は、仕事も順調なようで、年収も随分と上がっている様子でした。

父の遺産は多くはありませんでした。先祖代々の土地に建つ自宅と、普通預金。預金はこれからかかるであろう母の介護費用を考えると、心細い金額です。相続財産のうち、多くを占める財産が自宅なので、Aさんは「弟と公平にわけたいもののどうしたらいいか」と頭をずっと悩ませました。当然、自宅はAさんはこれからも住み続けたいので、売ることもできません。

積もる話もそこそこに、弟はあらかじめ考え抜いてきた案を切り出しました。

「ここの自宅をお兄さんが相続するというのなら、その半分を現金でもらえないか」

Aさんは展開の早い話で少しびっくりしました。弟はあらかじめいろいろ考えてきたようです。

確かに、法的には兄弟で均等にわける権利があります。しかし、この土地は立地条件がよく、評価額に直すと3,000万円にもなるのです。Aさんはこれからもこの家に住み続けたい。けれど、弟が提示した「半分」の金額は、Aさんが老後のためにコツコツ積み立ててきた貯金をすべてはたいても、到底足りない額でした。

悩んだAさんは、「ならば自宅を2分の1ずつの共有名義で相続してはどうか」と提案しました。しかし、そこには相続税という大きな壁が立ちはだかります。

自宅の相続は、同居していた家族(Aさん)と同居しておらず自分自身の自宅をもっている家族(弟)とで、相続税の評価が大きく違ってくるのです。相続税には「小規模宅地等の特例」という制度があり、同居していた家族が自宅を相続する場合、土地の評価額を最大80%も減額できます。しかし、弟はこの特例が使えません。

弟も納得はしませんでした。自分が住むわけでもない家の名義を持ち、利用もできないのに税金だけ払わされるメリットを感じなかったからです。

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