“争いのタネ”を小さくする「生前対策」
チエさんが亡くなった場合、相続人は長男コウイチさん、次男ショウジさん、長女ケイコさんの3人です。
遺言書などがないまま相続が発生し、遺産分割協議がまとまらなければ、各人の取り分は法定相続分である3分の1ずつとなります。当然、ケイコさんも自分の取り分を主張してくるでしょう。
今回のようにチエさんが「ケイコさんには遺産を渡したくない」と考えているのであれば、遺言書を作成しておくと安心です。
ただし、仮に「ケイコさんにはいっさい遺産を渡さない」と記したとしても、ケイコさんには遺留分を請求する権利があります。そのため、「1円も渡さない」というのは現実的には難しいでしょう。
また、遺産の内訳が現金より不動産の割合が大きい場合、「相続税」を支払うための現金をどう確保するかも重要な課題です。「土地は相続したものの、相続税を払えずに結局売却した」というような話を耳にしたことがある人は多いのではないでしょうか。
遺留分を請求されたものの現金がなく不動産しかない場合や、土地を相続したものの相続税が払えないといった心配がある場合には、「生命保険」の活用も有効な手段です。生命保険金は受取人固有の財産となり、受取人が自由に使うことができるため、遺留分の支払いや相続税の納税資金として利用できます。
さらに、受取人が法定相続人であれば、相続税を算出する際に生命保険の非課税枠(500万円×相続人の数)も適用されるためおすすめです。
実家の居間に響く長女の悲鳴
母のチエさんはその後、コウイチさんと相談のうえ「遺言書」を作成。それから1年後、コウイチさん家族に見守られながら、90歳で静かに息を引き取りました。
――そして、チエさんの葬儀から数日後。遺産分割協議のために兄弟3人が実家に集まります。
意気揚々と現れたケイコさんですが、母の遺言書を確認すると態度が豹変。そこには、ケイコさんに渡す財産についての記載がいっさいなかったのです。
さらに、ケイコさんの逆鱗に触れたのが、遺言書に記載されていた「(遺贈)長男の妻 〇〇カオルに対し、金〇〇万円を遺贈します」という一文でした。
「なによ、これ……いやだ、信じたくない! 実の娘より兄嫁を優先するなんて、ありえない!」「兄さんがお母さんを騙したんでしょう? カオルさんと一緒になって、卑怯者!」
実家の居間に、ケイコさんの悲鳴が響き渡ります。
コウイチさんが「おまえのこれまでの振る舞いの結果だろう。自業自得だよ」とたしなめるも埒が明きません。結局、ケイコさんには遺産から一定の現金を渡すことで決着がついたそうです。
また、母の意向で遺産のほとんどは長男のコウイチさんが引き継ぐこととなったものの、税理士に相続税の相談をしたところ、相続税の支払いが生じることが判明。相続税の支払いのために、一部の土地を売却したといいます。
いま思えば、一次相続の段階から対策しておけば相続税負担は最小限にとどめられたかもしれませんが、過ぎてしまったことはどうにもなりません。
コウイチさんは「子どもたちに苦労をかけないよう、自分は相続対策を万全にしておきたい」と話してくれました。
安易な一次相続は子どもに“予想外の負担”を強いる可能性も
相続税は、相続財産が非課税枠を超えたときに、その超えた部分に対して課税されます。
そのため、一次相続の際に対策を怠ると、二次相続で相続税の負担が重くなるケースがあります。非課税枠を超える資産がある場合は、一次相続の段階から二次相続を見据えた対策をしておくといいでしょう。
山﨑 裕佳子
FP事務所MIRAI
代表
