
大学生の春休みは、私立大学では早ければ2月上旬から、国公立大学でも2月下旬からスタートしています。就職先が決まり、卒業を控えた4年生は、遠方や海外へと「一生に一度の思い出づくり」に出かけている人も多いはず。しかし、華やかな卒業旅行の裏側には、見落としてはならない“重大なリスク”が潜んでいることも。本記事では、ある家庭で実際に起きた「卒業旅行」を巡るトラブルをもとに、若年層の事故リスクと、事故が引き起こす経済的・法的責任の重さについて解説します。
息子の「大学最後の思い出」
「はい、じゃー出発しまーす」「あーい」「ヤバい! テンション上がる!」
――2月下旬。国立大学の同じ学部で意気投合し卒業まで仲のよかった11人は、「スノボ旅行」と題した卒業旅行のため、長野に向かうところです。無事に就職先を決め、論文の提出も済ませ、あとは卒業式を控えるのみ。2台の車にわかれて乗り込み、すでにテンションは最高潮です。
「後ろついてきてる? なんか顔ヤバそうだけど笑」
ミニバンを運転するのが、今回の旅行の幹事であるダイスケさん(仮名/22歳)。親が貸してくれた車で、これまでも長期休みに仲間を乗せてドライブに出かけるなど、ある程度の運転経験があります。
もう1台を運転するのがマサキさん(仮名/22歳)。懸命な就職活動の末、大企業からの内定をもらいました。運転に関してはいわゆるペーパードライバーで、免許取得後に運転した回数は親の車でほんの数回。しかも、今回は初めてのレンタカーで、傷つけることはできません。
「俺、運転むりだよ」一度は断ったものの、ほかのメンバーは免許を持っていなかったり、マサキさんと同じペーパードライバーだったり……。ダイスケさん以外は、ほとんど運転経験のない人ばかりです。こうして、結局“いじられキャラ”のマサキさんが運転を務めることに。
ところが、旅行の計画を立てた日、家に帰り母・ノリコさん(仮名/52歳)にそのことを伝えると、空気が一変しました。
「え? あんた、運転できるの?」
「いや、わかんないけど……ダイスケが『高速道路はずっとまっすぐだから大丈夫』っていってたし」
「長野でしょ? 3時間あんただけが運転するの?」
「んーまあ……」
「考え直しなさい。なにかあっても代わってくれる人いないんでしょ? 事故に遭ったらどうするのよ。あんただけの責任じゃ済まないよ」
「……うるせーな」
普段は、大学生の息子と2人で出かけることもあるほど仲のいいノリコさん。しかし、卒業旅行に浮かれ真剣に考えようとしない息子に、思わず声を荒げます。
「大学最後の思い出をつくりたいのはわかるけど、悪いこと言わないからやめておきなさい。そんなに行きたいならバスか電車で行けば? あんたがそうするっていったら、ほかの子もそうしようってなるんじゃないの?」
「いまさらそんなこといえないだろ」
(誰も止める子はいなかったのか、マサキともう一人の子の負担が大きすぎるとは思わないのか、21~22歳にもなってそんなこともわからないのか……)あまりのモヤモヤに次の言葉が出ないでいると、夫が口を挟みました。
「まあ、気持ちはわかるぞ。父さんも大学のころ免許取りたてで、そんときの彼女を後ろに乗っけてバイクで長野行ったっけなあ」
「お父さんは黙ってて!」
マサキさんの誕生を機に会社を辞め、専業主婦として家庭を支えてきたノリコさん。ようやくここまで育てて内定も決まっているこの時期に、万一のことがあったらと気が気ではありません。
「一本の電話」に返す言葉もなく…卒業旅行は断念することに
そして、迎えた旅行当日。悪い予感がして朝早くに目を覚ましたノリコさんは、空になっている息子の部屋のベッドを見て、顔が青ざめていきます。
一方そのころ、これからの旅行に盛り上がる車内。いよいよ出発、となったタイミングで、マサキさんのスマホが鳴りました。
「もしもし? ちょっといま、どこにいるの!?」
母のあまりの剣幕に、返す言葉もありません。
「バカなこと言わないで! 取り返しのつかないことになる前にいますぐ帰ってきなさい!!」
そして、結局マサキさんは卒業旅行を断念することに。「おまえ、大丈夫? なんかあった?」心配する友人を尻目に、下手な言い訳をして帰宅の途につきました。
メンバーからは何件ものメッセージや不在着信が入っていたものの、返す気力も湧きません。こうして、マサキさんの大学最後の思い出は、苦い形で幕を閉じたのです。
