「保健所が許可を出さないから」とも言われているが、元駅そば店員の筆者が、自身の経験をもとに、駅そばがホームから姿を消していく事情を解説する。

◆閉店する理由「保健所の許可が下りない」の真偽は?
電車を降り、その土地の空気とともに熱いそばつゆが喉の奥に落ちていく瞬間こそ駅そばの本寸法であり、旅の醍醐味という感じがする。すぐ横を電車が往来する駅ホームで営業し、客席が店外にあるオープンカウンター式の駅そば店は現在、札幌、本庄、長野、三島、沼津、富士、静岡、鳥栖、小倉、福岡など全国に十数店舗あるといわれている。
昔ながらの風情が味わえるとあって駅そばファンには人気の高いスタイルだが、同時に希少な存在でもあり、SNS上で「〇〇駅の店舗が閉店した」という情報が出るや落胆と絶滅を危惧する声を多く目にする。
オープンカウンター式の駅そばホーム店が閉店する事情として最も耳にするのが、「保健所が許可を出さないから」というもの。
たしかに2021年6月に改正された食品衛生法の施設基準には「調理場と客席を分ける仕切り(扉やスイングドア)が必要となる」といった項目が追加されており、カウンターの開けっ放しの窓越しにそばを提供する形式は新基準に適用しないとみなされてもおかしくない。
コロナ禍以降厳しくなった衛生管理という観点でも、「客席がホーム上にある」というスタイルはウィークポイントにもなってしまうかもしれない。
しかし、オープンカウンター式含む駅そばホーム店が閉店を余儀なくされるのは、保健所が許可を出さないという事情以外にもさまざまな要因が存在する。
◆店内は37度超え、猛暑によって休業・閉店も
保健所の許可以外でホーム店を閉める一因としてまず考えられるのが、昨今の猛暑による労働環境の過酷さである。筆者が2年前まで働いていたJR系列の店舗は、オープンカウンター式ではないが両脇が線路に挟まれたホーム店。
四方を壁とドアで囲っているとはいえ、真夏はエアコンの冷房効果がないに等しく、連日店内は30度超え、温度計が37度を記録した日もあった。
従業員の体調を心配したお客から「気の毒すぎる。本社に苦情を言ってやる」と言われたことさえある。
当然、そのような環境ではいくら冷やしメニューを出しても売り上げが悪く、同駅の4店舗でトップだった売り上げが夏場は半減した。
決め手は昨年6月から改正労働安全衛生規則が施行され、企業は労働者の熱中症対策が「罰則付きの義務」となったことだろう。その店舗はとうとう昨年夏は「休業」という措置をとった。

上記店舗で冷房効果がなかった原因は室外機の経年劣化という説明だったが、空調だけでなく排水や調理設備などあらゆる設備の修理・交換をするにも、ホーム店は容易ではない。階段の下などの狭小のデッドスペースで営業しているケースが多いからだ。
薄利多売の商売だけに改修費用と売り上げを天秤にかけて閉店というケースも多く、厨房水回りの改修費用が150万円ほどかかると業者に見積もりを出されて閉店した店舗もあった。

