◆足が気になって駅弁の味がしない…

「箸を進めようとするたびに、視界の端にはどうしても“おじさんの靴下”がチラついて……」
おいしいはずの煮物も、ご飯も、まったく味がしなかった。
「注意すべきか?」工藤さんは思案していた。
とはいえ、車内はあまりにも静かすぎた。パソコンのキーボードを叩く音さえ響くような車内で、「あの、足やめてもらえませんか」と声をあげれば、間違いなく自分自身がワル目立ちしてしまう。
そうこうしているうちに、あろうことか中年男性は爆睡し始めた。
「もしこれで、巨大なイビキでもかいたらどうしよう……」
靴下の視覚テロに加え、イビキの騒音テロまで加わったら精神が持たない。工藤さんは考えることを放棄し、イヤホンの音量を上げ、ひたすら駅弁をかきこむしかなかった。もはや何を食べたかさえ覚えていないという。
◆新幹線の快適さは「隣席ガチャ」次第
結局、工藤さんは名古屋に着くまで、なんとか耐え抜いた。ホームに降り立ち、外の空気を吸い込んだ瞬間、これほど空気がおいしいと感じたことはなかったという。清々しい気分だった。この体験から学んだ教訓は「特にない」と工藤さんは語るが、「強いて言うなら、新幹線の快適さは、隣に誰が座るかの運次第」とのことだ。
「次に新幹線に乗るときは、どうか靴下で足を上げない人が隣に来ますように」
どれだけ高い駅弁を買っても、どれだけ窓の景色が良くても、隣席ガチャに外れたら全てが終わってしまうのだ。
<構成・文/藤山ムツキ>
【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズほか多数。X(旧Twitter):@gold_gogogo

