救急救命士はなぜ病院を離れ、民間で起業したのか。医療を支える新たな挑戦

救急救命士はなぜ病院を離れ、民間で起業したのか。医療を支える新たな挑戦

医療と現場をつなぐ民間救急の役割

──現在はどのような事業を展開しているのでしょうか?

木下さんアイコン

大きく分けて、「病院内救命士システム」「夜間救急救護システム」「イベント救護」があります。

病院内救命士システムでは、契約先の医療機関に救急救命士が部署単位で常駐します。主に救命士を配置したくても教育体制がない、求人を出しても人が集まらないという病院の救急対応を担っています。

夜間救急は、高齢者施設などで急変があった際に電話で連絡を受け、救急車を呼ぶかなどの一次相談先となる事業です。イベント救護は、コンサート会場やマラソン大会などでの救護です。

──病院や高齢者施設に救急救命士が携わることで、施設側からはどのような反応がありましたか?

“長尾さんアイコン"

病院の方からは、看護師の負担軽減につながったという声をいただきます。救急対応では、看護師が点滴などの処置から手術、入院準備、家族対応などさまざまな業務をこなしていましたが、これらの業務は救急救命士にも担えるため、可能な限り代わりにおこなっています。

また、高齢者施設からは、夜間急変時の不安が軽減したという声をいただきます。それまでは、急変にどう対応していいかわからずとりあえず救急車を呼んでいた施設が、私たちに相談することで適切に判断できるようになり、119番通報回数がゼロになったという事例もあります。夜間を数人の介護職員で対応している施設では、急変時の不安が軽減したことで離職率が下がったという声もありました。

失敗から学んだ信頼関係の築き方

──民間の救急救命士が欠かせない存在になっていることが伝わってきました。

“長尾さんアイコン"

じつは、最初から現在のように必要とされる存在だったわけではないんです……。起業後すぐに契約いただいた病院で、スタッフの方々と私たちの間で十分なコミュニケーションを取らないまま業務を進めてしまい、契約終了になってしまったことがあります。

前職の病院での経験から、自分たちのやり方や意義に自信を持っていましたが、現場の看護師さんたちの職域や思いを理解しないまま進めたことが原因でした。

インタビューを受ける長尾さん

──起業してすぐに顧客を失うダメージは大きかったのでは。

“長尾さんアイコン"

自信をなくしましたし、なかなか新たな契約先が見つからず倒産の危機にまで追い込まれました。その状況を変えてくれたのは、後輩2人の存在でした。

当時、木下さんと私、もう一人の同期の3人に加え、信じてついてきてくれた若手社員が2人いました。彼らに「うちの会社は先がないかもしれない。別の就職先を探してほしい」と正直に伝えたんです。

ところが返ってきたのは、「いけるところまで、3人についていきたい」という答えでした。私たちを信じて人生を預けてくれている仲間がいるのに、自分が腐っている場合じゃないと思いました。この失敗から学び、派遣先では技術面と同等に人間関係の構築を最優先事項に据えています。

木下さんアイコン

救急救命士の仕事の本質は、まさにコミュニケーションにあるんです。救急現場でパニックになっている家族や意思疎通が難しい患者さんから、いかに正確な情報を引き出し医師に伝えるか。その対話スキルが、多職種連携の場でも武器になると感じています。

病院は有資格者が多く、それぞれの職域にかかわることに対して敏感です。なので、私たちができることを丁寧に説明し、かかわる職種の業務内容や考えを把握するよう努めています。その一環でカンファレンスにも参加し、常駐先の病院のスタッフという意識を持って働いています。

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