2025年6月。葛尾村にある休業中だったニット工場が息を吹き返しました。前工場主から設備を引き継いだのは、九州は福岡県を本拠とするアパレル企業、有限会社カラーofカラーズ。遠く離れた福島の地に、初めての自社工場を持つ決断をした裏には、どのような理念と意図があったのでしょうか。新しく「カタチニスルトコ。KATSURAO Create Labo」と名付けられたその場所を訪ね、副田知宏(そえだ ともひろ)社長ほか、社員の方に話を聞きました。
高い技術に支えられたニットは唯一無二の手触り
広い構内に整然と並んだ自動横編(よこあみ)機。稼働中のマシンを覗かせてもらうと、内部では部品が高速でスライドし、下部からは編み上がった製品が少しずつ姿を現してきていました。これらのマシンは別室のコンピュータと連動し、画面上でプログラムされた図柄のとおりにセーターやストールなどのニット製品を編み上げていきます。

「自分で考えたものをこうして形にできるところが、この仕事のおもしろさですね」。この道30年のベテラン、ニット・テキスタイルデザイナーの清野光一(せいの こういち)さんは、プログラミングの様子を実演しながら語ってくれました。

福島県伊達市出身の清野さん
清野さんは現在、この工場唯一のニットプログラマーだそう。副田社長は、彼に続く人材を採用し、育てていきたいと語ります。
「彼の技術はすごいんですよ。このストールは、(同じ双葉郡の富岡町にある桜の名所)夜の森の桜のトンネルをイメージして、と伝えただけでこのようにプログラミングしてくれました。デザインだけでなく糸のことも熟知していないとできないことです」

ミスインターナショナル2025の参加者が富岡町を訪問時、贈り物としてカラーofカラーズが製造したストール
そのストールを手に取ってみると、なんともふんわりとした柔らかい手触りです。この独特の風合いを出せる秘密が「水」。これこそ副田社長が葛尾村を選んだ理由のひとつでした。完成した製品を最後に洗浄する際、そこで使う水の質が仕上がりを左右するのです。
「ミネラルが多い硬水でシャンプーすると髪がギシギシするでしょう。繊維も同じことです。葛尾の水は阿武隈山系の超軟水。ミネラルが非常に少ないため繊維がきしまず、唯一無二の肌触りが生み出されます」
これに加えて副田さんが重視するのが、超軟水の持つ環境負荷低減の効果です。洗浄力を阻害する硬度成分がないため洗剤の使用量が少なく済み、すすぎの回数と水量も大幅に削減が可能。もちろん、付随する電力消費の削減にもつながります。
その電力についても、取材時点では40%を太陽光発電により自給中。現在もソーラーパネルを増設していて、まもなく100%を達成するとのことでした。一般に環境負荷が大きいとされるアパレル製造において、可能な限りエシカルなものづくりを実践しています。

素材も可能なかぎり天然のものを使用
廃棄ゼロへ向け、地域内で資源循環を目指す
2003年に福岡県福岡市でカラーofカラーズを創業した副田さん。そもそも葛尾村のことはどうして知ったのでしょうか。
「私たちは、レディースアパレルのオリジナルブランド「SO(エス・オー)」を中心に、企画から販売まで手掛けています。これまで生産はすべて外部に委託しており、ニット製品に関してはほぼすべて海外製でした。国内のニット工場はどこも高齢化などで生産力が激減しているからです。ただ、糸からこだわって開発する私たちにとって、なかなか求めるクオリティが出せないこともあり、これをなんとか国内に回帰させたいとずっと考えていて。日本各地に委託先を探すなかで出会ったのが、葛尾村のこの場所で操業していた会社さんでした」

月に20日ほど葛尾村に滞在するという副田社長

主力ブランドSOのイメージは「あなたの毎日に“最高”で “最幸”の瞬間を届け“ So Happy “で溢れる世界にしたい」(写真提供=カラーofカラーズ)
ところが、まもなく同社は経営困難となり廃業の道を選ぶことに。生産設備の引継ぎを打診され、これをチャンスと考えた副田さんは引き受ける決心をします。その理由はもちろん、超軟水だけではありませんでした。
「葛尾という小さな村ならではの、資源の地域内循環の可能性に惹かれたのです。もともと、製造過程でどうしても出てしまう廃棄物を資源に変え、新しいプロダクトの創造につなげたいと考えていました。ひとつは一次産業との連携です。都会の福岡では難しいことも葛尾村なら挑戦しやすいのではないかと」
実験はすでに始まっています。廃棄された自社製品のウールを畑の土に還すという試みや、そのウールに水を加えた苗床で野菜を栽培する試みなど。その様子は、まるで研究所のようです。

ウールの苗床で育つベビーリーフや水菜。将来的には、こうした食材を併設予定のカフェで提供することも視野にあるとか
「最終的には100%土に還して自社の廃棄物をゼロにしたい。そういう思想は以前からもっていましたが、もし葛尾村に出会わなければ、おそらく思想のまま終わっていたでしょうね」
想いを形に――。だからこそ、この工場には「カタチニスルトコ。KATSURAO Create Labo」という名称が付けられたのでした。
副田さんがもうひとつ、注目しているのが地域の「食」の魅力です。アパレル企業の枠を超え、村内で生産される牛やヤギのミルクを使ったチーズやその他の加工品、副産物のホエイを活用した商品など、すでに地域の事業者とともに試験的な開発を進めているとのこと。そこにカラーofカラーズの強みであるブランディング力やプロモーション力を活かしたいと語ります。

