
私立大学に比べ、同窓会組織や寄付文化が希薄とされてきた公立大学。しかし、その弱点を逆手に取り、独自の基金を構築したことで、経済的背景に左右されない学生たちの研究留学の道が拓かれました。本記事では、河合塾の入試難易度予想ランキングで、偏差値70台を記録している奈良県立医科大学理事長・学長の細井裕司氏の著書『挑戦する人か、文句を言う人か』(日経BP)より、同大学の戦略的な資金調達方法について解説します。
金銭的理由で留学できない学生をなくす
リサーチ・クラークシップにより、学生を国内外の有名大学や研究機関へ派遣する取り組みを進めましたが、悩みは留学費用の財源でした。私は、経済的な背景に関わらず意欲ある学生が挑戦できる環境をどうしても整備したいと考えていたのです。
奈良医大は県立大学のため、主な運営財源は、県からの交付金と附属病院の収益です。しかし、リサーチ・クラークシップの開始を予定していた当初、県には、毎年の交付金に加えて2025年開設の新キャンパス(畝傍山キャンパス)の建設に向けた予算を割いてもらっており、留学費用で増額を要望するのは非常に厳しい状況でした。
そこで、何とか大学が主体的に財源を確保する仕組みをつくろうと、2015年の創立70周年を機に「未来への飛躍」基金を立ち上げることを決意しました。
同基金は、奈良医大の教育、研究、診療を充実させ、社会貢献や国際貢献を進めるために、卒業生、在学生の保護者や教職員、企業などから寄付金を集めるものです。時代を先取りするような新たな挑戦を始めようとすると、どうしても新たな資金が必要になります。挑戦を見送る選択肢もありますが、それでは奈良医大のブランド力をいつまでも高めることができません。
私立の医科大学・医学部では、強力な同窓会組織があり、恒常的に多額の寄附金を集めて、大学の活動を支援する体制が整っている例が少なくありません。未来への飛躍基金も、医学科と看護学科のそれぞれの同窓会と連携し、奈良医大で初めて同様の仕組みを構築するものとなりました。
納税の一部を母校のために…ふるさと納税の活用
さらに、未来への飛躍基金の創設にあたって、奈良県と協議を重ね、寄付の方法の一つとして、「ふるさと納税」制度を利用することにしました。
寄付希望者はまず本学に「ふるさと奈良県応援寄附金申込書」を提出し、奈良県にふるさと納税を行います。寄付金は全額、奈良県から本学「未来への飛躍基金」に充当され、寄付者には、税務上の優遇措置が与えられ、さらに、奈良県外在住者は返礼品も受け取ることができます。現在では多くの公立大学が採用するようになっていますが、奈良医大は早期から取り組んだ大学の一つでした。
ふるさと納税は、税務上の優遇が大きい点に特徴があります。例えば、年間収入1500万円の勤務医が30万円を寄付した場合、2000円の自己負担を除き、全額が所得税や住民税から控除されます。この制度は高所得層にとって非常に利用価値が高いものですが、当時はまだ、意外にも利用していない人が多いと聞いていました。そこで私はこのような制度があれば「納税の一部を母校の未来のために」と考えてくれる方が数多くいるのではないかと考えました。
もちろん、基金を創設すれば、自動的に資金が集まるわけではありません。基金の実効性を高めるため、2つの施策を展開しています。1つは、基金担当学長補佐を任命し、組織的な寄付のための広報活動を展開すること。もう1つは、500万円(個人)以上の寄付をいただいた方に対する紺綬褒章授与申請を行い、感謝の意を表す顕彰制度を整えています。
